第15話

 やっとのことで家に帰ってきたヒューイたちが見たのは、空になったベットだった。家の中にユーファの姿はない。ヒューイは、ベットの隣に落ちていた血だらけのマントを拾い上げる。


「二人とも……どこにいったんでしょう」


 マントの血は、乾いている。


 どうやら、薬草なしでも血を止める術を見つけたらしい。

 

「ヒューイ、見て。鍋の底に血が付いている。うん、たぶんこれで傷を焼いたんだね。ユーファらしい考えだよ」


 シルメの言葉に、ヒューイの指先は震えていた。


 傷を焼かれる痛みを想像したからである。


「……ユーファ君は、どうしてそんなことをしたんでしょうか?」


 ヒューイの疑問に、シルメは答えた。


「たぶん、俺たちが間に合わないと思ったんだろうね。うん、ここにいないってことは川とかにいったかな」


 シルメの言葉に、ヒューイは噛みつく。


「どうして、家にとどまっていなかったのですか?」


「火傷の手当をするためだよ。川ならば、体も洗える。体を洗ってから、火傷の効く薬草を使う気なんだろう」

 

 シルメは、薬草が保管されている棚を確認する。火傷に効く薬草は、減っていない。やはり、今は川に行っていると考えるのが自然だろう。


「そうですね……川に行ってきます」


 ヒューイが家を出る。


 シルメもそれを追った。


 近くの川辺まで行くと、ゲリアに支えられて歩くユーファの姿があった。それを見たヒューイは、ほっとしたようだった。


「ユーファ君、大丈夫ですか?」


 ヒューイの言葉に、ユーファは前を向く。


 そして、二人を見つけてにやりと笑った。


「おい、遅いぞ」


 憎まれ口が叩ける程度には、元気そうである。


 その姿を見たヒューイは、両膝をついた。


「おい、どうしたんだよ」


 ユーファは、ヒューイに近づく。


「……あなたが生きていてよかったと思ったんです」


 大げさだな、とユーファはいう。


「これぐらいの怪我で死んでたまるかよ」


「だから、あなたは楽天的すぎるんです。普通の人間なら死んでます」


 ヒューイの嘆きを、ゲリアは苦笑いしながら聞いていた。たしかに、焼いて血を止めるなどの方法はユーファぐらいしかやらないであろう。


「火傷の具合はどうだい?」


 シルメの言葉に、ユーファは答える。


「一晩中冷やしてもらってた。今は、川で汗を流してきたところだ。悪いけど、傷口に薬草をはってくれないか」


 ユーファの言葉に、シルメは頷く。


「ああ、いいよ。歩くのも辛いだろう。俺がおぶっていくよ」


「ありがと……」


 ユーファの差し出した手がシルメに届く寸前に、ユーファはしゃがみこんだ。


ゲリアは、それに驚く。


「大丈夫、ユーファちゃん?」


 ゲリアの言葉に、ユーファは頷く。


「ああ……ちょっと傷が痛んだ」


 シルメはその場で、ユーファの服をまくり上げて傷を確認する。そして、ひどい火傷に言葉を失った。


「ユーファちゃん、自分で傷を焼いちゃって……」


「うん、なんとなく予想はしていた。けど、実際に見るとひどくて」


 シルメは、ユーファの頭をなでる。


「よく頑張ったね、良い子、良い子」


 ユーファは、シルメの手を払いのける。


「ガキじゃないんだから」


「君たちは、今でも大切な弟分だよ」


 シルメは、そういって微笑む。


 そんなとき、ぽつりとヒューイの声が響いた。


「……君のせいですね」


 ヒューイは、槍をゲリアに向けていた。


 そのことが信じられず、ゲリアは「えっ」と間抜けな声を漏らした。


「こんなことになったのは、全部が君のせいですね」

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