第14話

 夜が明けた。


 ゲリアは、明るいなかでユーファの火傷の痕を再確認した。ひどい火傷は一晩冷やしたところで変わりがない。


「このあとの処置って、どうすればいいんだろう」


 ゲリアは、そう呟く。


「……体を清潔にして、火傷に効く薬草を張り付けるとかだろうな」


 ユーファは、服を整える。そのときになって初めて、ユーファは自分のサラシがほどけていることに気が付いた。


「……これって?」


「あっごめん、ユーファちゃん。苦しいと思って取っちゃったんだ」


 ユーファは、ほどけたサラシを巻きなおし「そうか」と答える。


「でも、言葉遣いといい。態度と言い、男としか思えなかったよ。すごい演技力だね」


 ゲリアの言葉に、ユーファは悪そうに笑った。


「そうだろ。おかげで、女言葉の使い方も忘れたわ」


「……それって、あんまり褒められたことではないよね」


 ゲリアは、ため息をつく。


「どうして、男のふりなんてしてたの?普通の女の人だったら、自衛のためとか考えられるけど、ユーファちゃんは強い魔法使いだから自衛のための男装じゃないよね」


 野党を警戒しての男装という線も考えたが、竜に喧嘩を売るユーファが野盗を恐れるとは考えにくい。


「……あー……それは言えないんだわ」


「……分かったよ。女の子の秘密は、ほじくり返さない主義だから」


 ゲリアの言葉に、ユーファは笑った。


「ありがたいけど、俺を女扱いするのはシルメとヒューイの前ではやめておいた方がいいぜ。特にヒューイの前ではな。あいつ、デリケートなんだよ」


 ユーファの言葉に、ゲリアは苦笑いした。


 彼に槍を向けられたことから、なんとなくそれが察せられていたからだ。


「悪い、ゲリア。新しい上着を取ってくれ」


 言われた通り、ゲリアは新しい上着をユーファに手渡す。ユーファは、ためらいなく着ていたものを脱いだ。


「ちょっと!」


「あ……すまん。普段の癖で、つい」


 ついではない、とゲリアはため息をつく。


 一晩中面倒を見ていたとはいえ、ゲリアも男である。もう少し気を使ってもらわないと困る。


「ゲリア、川に行って体を洗ってくる。手を貸してくれ」


「うん……いいけど。ユーファちゃんは、動いて大丈夫なの?」


 立ち上がろうとするユーファをゲリアは支える。


「まだ歩くとふらつく。だから、支えていてくれ。近くに川があるんだ」


 ユーファの案内で、ゲリアは彼女を川に連れて行った。ゲリアは少し離れて、川に背を向ける。


「ゲリア。お前は、現王の命令で、俺たちを探しに来たって言ったよな。現王は、俺たちに何か用があるのか?」


 川の水で身を清めていたユーファは尋ねる。


「俺は、探せって命令を受けただけだよ。ただ、ユーファちゃんたちの師匠は殺されているんだよね?今更、穏便にお城にご招待という感じではないと思うな」


 ゲリアが一瞬だけでもユーファを見殺そうと考えたのも、それが原因である。きっと王は、ゲリアたち三人を害する気でいるだろう。


「俺もそう思う。ふぅ……厄介なことになったな。ゲリア、あがったぞ」


 川から上がって、着替えたユーファをゲリアはまた支えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る