第13話

「ユーファ、無茶をしていないといいんですが」


 ヒューイは、そう呟いた。崖の下で焚火を焚き、シルメと共に夜を明かしている。夜明けまではあと数時間ある。


「ヒューイ、座らないと無駄に体力を消耗するよ」


 シルメは、ヒューイに声をかけた。


 だが、ヒューイは落ち着かない様子でうろうろと歩きまわっている。


「シルメは心配じゃないんですか。私たちが出て行ってから、もう何時間も立っている。ユーファの血がまだ止まらないのならば、そろそろ本当に危なくなっているころです」


 ヒューイの脳裏には、苦しんでいるユーファの姿が浮かんでいる。


だが、シルメは慌てない。


「今、俺たちができるころはないよ。うん、ない。だから、落ち着いて待つべきだよ」


 ヒューイは、首を振った。


「もう待てません。何とか崖を登って、元来た道にもどります」


 持っていた槍をヒューイは、シルメに預けた。


長い槍を渡されたシルメは、ため息をつく。


「この崖、崩れやすいよ。君が昇るのは危険だ」


 シルメは、ヒューイに止めるように声をかける。


 だが、ヒューイはその声を聞かなかった。


「ユーファのことも心配できない薄情な人間に、止められる云われはありません!」

 

 ヒューイはそう叫ぶと、崖の岩に手を伸ばした。


触っても崩れないことを確認すると、そこに指をかける。慎重に崖を登るヒューイの姿をシルメは心配しながらも見守っていた。数メートルは、登ることはできた。だが、ヒューイが足を乗せていた石が崩れる。


 ヒューイは、息を飲む。


 指先で捕まっている石に全体重がかかる。


 急いで別の石に足をかけようとするが、その前に指先をかけていた石が崩れる。ヒューイの体が、宙に放り出された。このまま地面にたたきつけられると思ったが、その前に柔らかく抱き留められる。シルメだった。落ちてきたヒューイを彼が抱き留めたのだ。


「大丈夫かい?」


 ヒューイは、ばつが悪そうな顔をした。


「……はい。ありがとうございます」


「うん。君は俺たちのなかで一番身軽だけれども、さすがに崖を登るのは無理があったね」


 シルメは、穏やかに笑っている。


「すみません……さっきは言い過ぎました」


 ヒューイは、顔を伏せたまま謝った。


「気にしないでくれ。君がユーファのことを思っているのは、分かっているから」


 落ち着いているシルメに、ヒューイは敵わないと思う。昔から、そうだ。年齢が二つ違うだけで、シルメはいつでも年上の余裕をもってヒューイたちに接する。


「それにしても、なつかしいね。小さい頃に森で迷ったときも、似たようなことがなかったっけ?あの時は、君は木に登ろうとしてたんだっけ?」


 シルメの言葉に、ヒューイが首を振る。


「木に登ったのは、ユーファでしたよ」


「そうだったけ。もうよく覚えていないや」


 ヒューイは「私はよく覚えています」と答えた。


「そうだね。ヒューイは記憶力がいいからね」


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