第12話

ぎゅっとユーファが目をつぶるのが分かる。


 傷を焼かれる覚悟を決めたのだろう。一方で、ゲリアは傷を焼く覚悟をしかねていた。手は、未だに震えている。そのことをゲリアは情けないと思った。女のユーファは、すでに覚悟を決めてしまっているというのに。


「ユーファちゃん……」


 ゲリアは、震えながらもユーファの名を呼ぶ。


 ユーファは、もうなにも答えない。布をくわえているし、完全に覚悟を決めているからだろう。だとしたら、ゲリアも覚悟を決めなければならない。


「……恨まないでね」


 ゲリアは、ユーファの背中の傷に焼けた鍋の底を押し当てた。


「っ……!!」


 かみ殺されたユーファの悲鳴。


 その声を聞いたゲリアも顔をしかめた。ユーファの状態は直視できるようなものではない。しかし、途中でやめることもできない。焼けた肉の匂いが、あたり一面に漂った。


「ユーファちゃん……」


 ゲリアは、傷に鍋を押し付けるのを止めた。


 ユーファは荒い呼吸を繰り返し、ベットに倒れる。


「ユーファちゃん!」


 ゲリアは、ユーファに駆け寄る。


 彼女は荒い呼吸を繰り返しながらも、ゲリアに指示を出した。


「傷を冷やさねぇと……火傷だから」


「ああ。そうだよね。うん、待っていて」


 ゲリアは布を濡らして、ユーファの傷を冷やす。火傷の状態は酷かったが、血は止まっている。ゲリアは、それにほっとした。


「ユーファちゃん、血は止まっているよ。よかったね……」


 ゲリアは、ユーファの頭をなでる。


 その手の感触に、ユーファは少しほっとしたようだった。


「ゲリア。悪いけど、しばらく傷口を冷やし続けてくれないか」


「そのつもりだから安心して、ちゃんと冷やしておくから」


 ゲリアの言葉に、ユーファは微笑んだ。


「……ありがとう。ゲリア」


 ユーファは、呼吸を整える。


 それでも時より顔を引きつらせて、痛みに耐えていた。


「ユーファちゃん。大丈夫じゃないよね。何か気を紛らわせるようなものってあるかな」


 ゲリアは当たりを見渡しが、ユーファの気を紛らわせるようなものはなにもなかった。


「ここって、娯楽が極端に少ないよね。退屈な人生じゃないの?」


 ゲリアは、ずっと都会で暮らしてきた。


 あそこは刺激にあふれていた。


 だが、この森には刺激がない。


「……全然退屈じゃねぇよ。シルメもヒューイもいるしな」


「よっぽど仲がいいんだね。二人と」


 ゲリアは、そういった。三人の仲が良くなければ、同居などできやしない。二人が男で、一人が女の組み合わせならばなおさら。


「仲いいよ。幼馴染っていっただろ」

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