第9話

 ゲリアは、ユーファの傷を抑えていた。


 竜の爪の毒によってユーファは血が止まらなくなってしまっており、薬草が届くまで傷口を圧迫し続けるしか手当の方法がない。本当はあるのかもしれないが、知識がないゲリアにはこれしかできることがない。


「ユーファちゃん、大丈夫?」


 痛みのあまり脂汗をかくユーファに、ゲリアは尋ねる。


ユーファは、にやりと笑った。


「ああ、大丈夫だ」


 その声は震えていた。


 ゲリアには、それが強がりだと思った。


「ユーファちゃん。強がらなくていいよ」


 その言葉に、ユーファは息を飲む。


 彼は、目を見開いていた。


「あの二人に痛いのを隠してたでしょう。心配かけたくないのは分かるけど、他人の俺のことは気にしなくていいから」


 ゲリアの言葉に、ユーファは「ありがてぇ」と呟く。


 その顔は、相変わらず苦痛に歪んでいた。


「毒のせいなのか痛みが酷いんだ。このままじゃ気絶しそう」


 それは、初めて聞いたユーファの弱気だった。


 ユーファの顔色は悪く、今すぐにでも気絶してしまいそうだった。ユーファの噴き出る汗をぬぐってやりながら、ゲリアはささやく。


「気絶していいよ。そっちの方が、感じる痛みも少ないでしょう」


 それが、唯一できるゲリアの優しさだった。


 ユーファは首を振る。


「二人が頑張っているのに、気絶なんてできない」


「……そんなふうに頑張らなくていいと思うな」


 ゲリアは、ユーファに笑いかける。


「もっと気を楽にしていいんだよ。君たちは幼馴染なんでしょう」


「それでも気を遣うさ」


 皮肉気に、ユーファは笑う。


「……シルメちゃんとヒューイちゃんは、君のことを大事にしているよ。気を使わなくてもいいんじゃないかな」


 

「それでも、やっぱり……」


 言葉は、それ以上続かなかった。

 

 ユーファは気を失ってしまっていた。


 そのことに、ゲリアは少しばかりほっとする。少なくとも、これでユーファが痛みにうなされることはなくなったのだ。


 ゲリアはユーファが気絶しても、なお傷を圧迫し続けた。


「あれ?」


 ゲリアは、ユーファの胸に包帯が巻かれていたことの気が付いた。さっきまで背中だけを抑えていたから気が付かなかったのだ。


「なんだろう……これ。サラシ?」


 怪我をしているわけではさそうだった。


 胸のサラシには、血がにじんでいない。それに怪我のための包帯にしては、きつく締められ過ぎている。


「これ、キツイでしょう。とってあげるね」


 ゲリアは気を失っているユーファに一応声をかけてから、サラシに手を伸ばした。白いサラシをほどくと、やはり苦しかったのかユーファは「んっ」と声を漏らした。サラシが緩まると、ユーファは安心したように息を吐いた。そして、ほぼ同時にユーファの胸元の厚みが増した。


「えっ」


 ゲリアは思わず、目を丸くした。


 重みを増したユーファの胸部は、まるで女性の胸部のようであった。


「ユーファちゃん……って、まさか」


 ずっと男の子だと思っていたユーファは――女の子だったのだ。


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