第7話
「嘘でしょう。本当に三人だけで竜に勝っちゃったよ」
ゲリアは、信じられないものを見たような心地だった。
「ほら、三人でいけただろ」
ユーファは、ゲリアのほうに向き直った。その顔は、誇らしそうに笑っている。
「……ほんとにやっちゃうなんてね」
ゲリアは、まじまじと三人を改めてみた。
ユーファは自分が達人の弟子と話していたが、竜の血を浴びた二人も達人の弟子であるのだろうか。そうなれば数は三人で、弟子の人数は合う。
ゲリアは思う。
竜を直接倒したシルメとヒューイは、体格からして立派な戦士だということが分かる。だが、ユーファは魔法使いにしても華奢な体格をしている。本人は弟子であったというが、それが信じられないほどに。
「ユーファ。改めて聞きますが、彼は誰ですか?」
ヒューイは竜の血に塗れながらも、ゲリアに槍を向けた。警戒心の強いヒューイは、ゲリアのことを信用していないらしい。ゲリアは、思わず両手を上げた。
「ユーファちゃんと今日知り合ったゲリアです」
ゲリアは、できる限り笑顔で答えた。
「そうそう、人探しをしているって言っていたよ。山道にも慣れていないようだったから、手伝っていたんだよ」
ユーファは、ゲリアが達人の弟子を探しているとは言わなかった。
ユーファの言葉を聞いたヒューイは、ため息をついた。
「ヒューイ君、君は昔からお人よしすぎです。見知らぬ人間なんて、野たれ死にさせておけばいいんです」
ヒューイの言葉に、ユーファは苦笑いする。
それと同時に、ユーファはヒューイとゲリアの間に入っていた。どうやら、それでゲリアのことを守っているつもりらしい。
「野垂れ死にって……。さすがに、それは目覚めが悪すぎるだろ。なぁ、シルメ」
ユーファは、シルメの方を見た。
シルメは剣を鞘に納めると、改めてゲリアを見つめた。
ヒューイと比べれば穏やかそうなシルメだが、体格はシルメの方がよい。そんなシルメを見上げながら、ゲリアは本能的な恐怖を感じていた。シルメの体格は、大きすぎるのだ。男のゲリアさえも恐怖を感じるほどに。
「そうだね。さすがに目覚めがわるいね。でも、こんな時間に他人がここにいたってことは、ユーファは他人を俺たちの部屋に泊めようとしたんだよね。ダメだよ。そういうことをやったら」
シルメは、ユーファと視線を合わせながら言う。
その口調は穏やかながら、怒っていることが分かった。ユーファもさすがにシルメが怒っていることが分かったらしく、しゅんとしている。
「その……悪かったな。お前らが留守だから良いと思ったんだよ」
「いないからこそ、気を付けるべきだよ。今回だって、竜が俺たちの家の方に飛んでいったのが見えたから急いで戻ってきたんだよ。君が無茶していると思って」
シルメはそう言うが、ゲリアは居心地が悪かった。シルメがいうことに間違いはないが、泊めてもらおうと思っていた身としては耳が痛い。
「そして、自分が勝てない相手には喧嘩を売らないでください」
ヒューイもユーファに注意をする。
「分かったって、二人とも」
ユーファがそう言ったとき、全員がはっとした。首を落としたはずの竜の体が、動いたからである。ゲリアは、思い出していた。竜は生命力が強いのだ。首を落とした程度ならば、まだ動く。
「シルメ!」
ユーファは、咄嗟にシルメを庇った。華奢な体がシルメの前に立ち、竜の爪が彼の背中を貫く。
「ユーファ!!」
「ユーファ君!!」
二人の声が響く。
ユーファを貫いた竜は、もう動かなくなっていた。
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