第5話

「大丈夫かい?」


 そんなときに声が聞こえた。


 低い男の声だった。


 ゲリアは、恐る恐る目を開ける。竜が焼いた地面に、ユーファの死体はなかった。代わりにあったのは、巨大すぎる剣である。その剣が、竜が吐いた炎を防いでいた。


「なっ、なにがあったの……」


 ゲリアは、茫然としていた。


 そして、きょろきょろとあたりを見渡す。


「俺たちが間に合ってよかったよ。うん、よかったよ」


 そんな声がした。


 声の方向を見ると、そこには筋肉粒々の大男がいた。山のように巨大な男は、宝物でも守るかのようにユーファを抱きかかえている。


「シルメ。お帰り」


 ユーファは、自分を抱きかかえる男に向かって笑う。


「うん、ただいま」


 シルメと呼ばれた男も笑った。身長に反して、笑顔は穏やかそうな男である。ゲリアは、目を点にした。目の前に竜がいるというのに、ユーファもシルメという男も気にしていない。まるで、強大な敵などいないかのようだ。


「しっかりしてださい」


 ゲリアの前に、もう一人現れる。身長の高く、筒のような男だ。槍を構えた男は、シルメとユーファをあきれながら見ていた。


「なんで、一人で竜と対峙しているのですか?魔法使いが一人で竜退治なんて、正気の沙汰ではありませんよ」


 どうやら彼は、常識を持っているらしい。


 竜から視線をそらさずに、竜を警戒している。


「ヒューイもおかえり」


 ヒューイと呼ばれた男は切れ長の目で、ユーファの方を見た。


「おかえりではありませんよ。どうして、あなたがはぐれ竜なんぞに喧嘩を挑んでいるんですか?」


 シルメから降ろされたユーファは、なんてことないことのように答える。


「はぐれ竜の鳴き声が聞こえたからな。村にいかないように、ここに呼び寄せた」


 その返答に、ヒューイは眉間に皺を寄せた。


「あなたはバカですか。竜を呼び寄せて、一人で何をしようとしていたんですか?」


「一人じゃねぇよ。ゲリアがいた」


 ヒューイは、ゲリアの方を見る。


 彼は、今ゲリアに気が付いたとばかりの顔をしていた。


「なんなんですか、彼は?」


 ヒューイは、ユーファに尋ねる。


「今日、知り合った奴」


「戦力になるかどうかも分からない人を戦力としてカウントしていたんですか?まったく、あなたには呆れます」


 竜が唸った。


 その唸り声で、全員の視線が竜に集まる。


 敵が増えたにも関わらず、竜は怯えたりはしていなかった。それは、竜が圧倒的な強者である証拠だ。一方で、シルメとヒューイはそんな竜の様子は気にしていないようだった。


「私とシルメ、それにユーファが組んで何分で倒せると思いますか?」


 槍を構えなおしたヒューイが尋ねる。


「俺たちがきたからには、十分でいけるね。うん、いけるね」


 シルメも大剣を再び握る。


 ユーファも本を開き、全員が臨戦態勢に入っていた。


「あんたたち、阿呆なの!?」


 ゲリアは、叫んだ。


「竜は、国が軍隊が派遣するレベルの生き物なの。それを三人だけで、何とかするつもりなの?」


 ゲリアの叫びを誰も聞きやしない。


 それぞれが、それぞれの武器を取り、竜に向き合っていた。


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