第2話
ユーファの協力も得て、山探しは安全に行うことができた。夕暮れが近づき、これ以上の山道の捜索はできないとゲリアは思い始めていた。
今はまだ足元を見ることができる。だが、あと数時間もしないうちに足元の確認さえできないほど暗くなるであろう。そうなれば、山歩きは困難だ。
「あー、ゲリア。よかったら、うちに泊まっていくか」
ユーファは、そう切り出した。
それは、ゲリアにとっては願ってもない申し出であった。
「本当にいいの?俺としては願ってもない話だけど」
「ああ、元々三人暮らしだったから、ベットは二つもあまっているんだよ。それにろくな装備もなしに野宿はできないだろ」
ユーファの意見は、もっともだ。
ゲリアの今の荷物では、野宿などできない。
「安心しろ。夕飯も出してやるから」
ゲリアは、ユーファの言葉に甘えることにした。
ユーファの家は、大樹の上に建てられたツリーハウスだった。手作り感満載な家に、ゲリアは少しばかり不安を覚えた。木の上に建てられていることもそうだが、バランスが悪そうな家だった。
「ここで寝てるの?」
「ああ、野犬とかも上がってこられないから便利だぜ」
ユーファはそう言って、上がるようにゲリアにいう。梯子を使って家に上がると、家の中には所狭しと瓶が置かれていた。瓶の中身は果実らしきものから、何に使うか分からない黒いものまでより取り見取りであった。
「なんに使うの、こんなもの」
ゲリアは思わず、一番怪しげな瓶を取る。その中身は、カエルのようにも見える。あまりじろじろ見ると嫌な事実が発覚しそうなので、瓶は自主的に棚に戻しておいた。
「それ、冬用の食料の備蓄」
ユーファに言われて、ゲリアは「げっ」と思う。
嫌な予感がしたが、やはりそうだったらしい。カエルが食べられることは知っているが、都会育ちのゲリアは進んで食べたいとは思わない。だが、ユーファは特に嫌悪感を抱いている様子もなく、カエル入りの瓶を持ち上げる。
「こいつ、夕食に使おうか?」
ユーファはゲリアにそう尋ねるが、ゲリアは急いで首を振った。ゲテモノを食べたいとは思わない。ユーファは、悪い顔で笑った。
「冗談だって。筋肉コンビが取ってきた鹿肉が余っていたから、今日はそれを使おう」
こうして、夕食のメニューは鹿肉の串焼きとなった。
焚火を使ってユーファの焼いてくれたそれは硬かったが、噛めば噛むほどうま味があふれてきた。パンもスープもない食事が質素だったが、それでも量だけはあったのでゲリアは満足することができた。
「どうだ、山の料理もなかなかうまいもんだろ」
ユーファの言葉に、ゲリアは頷いた。
「ユーファちゃん、料理うまいね。いつもやってるの?」
「ああ、といっても焼いたり煮たりするだけだけどな」
ユーファは、何てことないことのように言う。
だが、ゲリアに言わせれば山で鹿を取って肉を焼くのは、普通の料理をするよりも労力がかかる。鹿をとってきたのは別人がやったというが、それでもゲリアにとってはやりたくない労力だ。あたりまえだが、都会にすむよりも山に住んでいるようなずっと労力がかかる。ゲリアには、考えられない。
「ユーファちゃんって、ずっと山に住んでるの?」
「いいや、数年前からだよ。幼馴染たちに誘われてな」
それで、ずっと山籠もり生活らしい。
ゲリアには、考えられない人生だ。
「俺だったら無理だな。山にこもってばっかの人生なんか」
ゲリアは、ずっと都会で過ごしてきた。
都会はいい。衛生的だし、カエルや虫を食べなくてもいい。なにより華やかで刺激に満ちている。
「俺は山のほうが好きだぜ」
ユーファは、笑っていた。
「山は静かだし、人と会うことも滅多にない。隠居生活にはぴったりだ」
ユーファの言葉に、ゲリアは首を傾げた。
「隠居って。ユーファちゃんは、俺と同じぐらいの歳だよね。隠居っていうには、さすがに早いんじゃないの」
弟子もとってないんでしょう、とゲリアはいう。
魔法使いというのは、弟子を取りたがるものだ。魔法というのが、代々の積み重ねによって研鑽されるものだからだ。
「俺は弟子を取るつもりはないからな」
「そうなの珍しいね。都会の魔法使いたちは、皆弟子を取りたがっていたよ」
「俺は、魔法の技術を後世に残すつもりはないからな」
相槌を打ちながら、ゲリアは変なのと思う。だが、この変なところがユーファが隠遁生活をしている理由なのかもしれない。
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