第6話スターダスト・コメディアン【ショートショート】

私はナナシ、皆さんは一人芝居をいう劇をご存知だろうか。


私が遭遇したのは、どちらかというと「相手がないのに、自分の思い込みだけでいろいろな言動をとる」方の、一人芝居をする人物に出会ったお話しです。




夕暮れの路地を通っていた私に唐突、凄い衝撃音が聞こえてきました。


慌ててその方向に視線を向けると、一人の人物が膝を抱え、頭から大量の血を流していました。


私は只事ではないと思い、その人物に駆け寄りました。


声を掛けようとする前に、その人物はスーッと立ち上がりました。


私はその人物の容姿を見て驚愕しました。


学生服を着たその人物の身長は、190センチを遥かに超え、特殊な形状の学生服を着こなし、奇妙なアクセサリーをジャラジャラと学生服の至るところに付けているのです。


更に特徴すべき点としては、帽子の後方部分と髪の毛が融合しているのです。


私は目の錯覚かと思いました。


いえ違います、その現実から目を背けるかのように、私は自分自身に目の錯覚だと思い込もうとしたのかもしれません。


私は数々の奇妙な体験をしているため、この学生は危険な存在だと、直感で感じとったのです。


私は一目散に、その場から離れました。


ほんのわずかな時間で10m程度離れ、わずかな安堵感が私の中にありました。


しかし、その考えは甘かったのです。


衝撃波のようなものを感じたと同時に、聞き慣れない奇妙な音が聞こえるのです。


「ドギュン!ドドドドドーー!」


この世にこんな奇っ怪な音があるのかと、私は身の毛がよだつ恐怖を感じました。


その瞬間、先程の学生がこちらに近づいて来るのです。


いや、近づくというよりは吹き飛ばされるように、こちらに飛んで来るのです。


私の不安をよそに、学生は身軽な身のこなしで、地面に着地すると何事もなかったように立ち上がりました。


そのとき、私はその学生がお茶目さんに見えました。


きっと、豪快にコケてしまい、その照れ隠しのため何事もなかったように立ち上がったのでしょう。


その後、その学生は頭から大量の血を流しながら「やれやれだぜ」と発するのです。


私は心の中で「それはこっちのセリフだ」と思ってしまいました。


更に学生は誰もいない方向に、カッコよくポーズを取り、ビシッと人差しを突き刺し、決めゼリフのような事を喋りだしました。


ここの場所には私とこの学生しかいないのです。


学生はこの変わった一人芝居を、私に見てほしいのかもしれないと思いました。


もしかしたら、文化祭の演劇の練習が唐突にしたくなったのかもしれません。


しかし、その真剣さがあまりにも恥ずかしく、私は目を背けてしまいました。


すると学生は突如、気が狂ったかのように「オラオラオラオラオラ」といつまでも叫び続けるのです。


学生は両手をズボンのポケットに入れて、その場で「オラオラオラ」と叫ぶのです。


そのとき様々な経験をした私にはわかりました。


これは特殊な発声練習ということに、そして私はその場を後にしました。


学生はまだ、頭から大量の血を流しながら、「オラオラオラ」と独特な発声練習をしています。




それから3日間、私はその「オラオラオラ」という声が頭から離れませんでした。

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