第3話マッシュルーム・ダンディー【ショートショート】

私はナナシ、皆さんは小さいおじさんという存在を知っているだろうか?


人気のなくなったり、人気が欲しい芸能人が突如発言する、架空の存在です。


そう、今日まで私、ナナシはそう思っていました。


しかし、私が遭遇したのはまさに、小さいおじさんだったのです。




その日は夕暮れの路地を歩いていた、いつもと変わらない日常。


足元の自分の影を見つめ、ふと正面に顔を向けると、そこには小さな子供がいました。


その子供を認識する直前、空から降ってきたかのように見えたが、目の錯覚だろうと思いました。


例え数十センチの高さから降りたとしても、人間ならばその衝撃で膝や体がその衝撃を吸収するために、何らかの動作をするはずだが、その子供は微動だにしなかったのです。


子供は帽子を被り、両手を肩から肘までをわき腹に密着させ、肘を90度に曲げ拳を握りしめたまま、全方へと垂直に伸ばしていました。


何か特殊な遊びをしているのかな?


そう思い私は子供に微笑みかけました。


しかし、子供は子供ではなかった!


その顔はまさにオッサンなのです。


いや、オッサンというには奇怪な顔をしていました。


口髭をのばし、鼻はなんと電球のように腫れ上がっているのです。


さらによく見ると、頭と体の比率が同等、つまり二頭身の体系をしているのです。


顔はオッサン、体は二頭身、そんな人間が突如私の前に現れたのです。


私はそこで初めて事の重大性に気付きました。


空から降ってきたのは目の錯覚ではなく、現実だったのでは・・・。


そう思うと体が震え、足を動かす事ができませんでした。


絶望する私に更なる絶望が起こりました。


今度は突如キノコが空から降ってくるのです。


そのキノコは真っ赤な笠に白い斑点、まさに毒キノコという恐ろしい雰囲気のキノコでした。


なぜ、キノコが降ってくるのだ?


頭の中が困惑していると、更なる衝撃が起こりました。


そのキノコが自ら移動し始めたのです。


キノコは自ら移動しますか?


答えはノーです。


私の感情は困惑から恐怖へと変わりました。


仮にキノコが移動するとして、何かしらの移動手段があるはずです。


仮に足があるなら歩行する、タイヤがあるなら車のように移動するなどが考えられます。


しかし、そのキノコは柄の部分の地面に垂直に立ち、スーッと一定のスピードで移動するのです。


動くキノコに気を取られていると、今度は小さなオッサンがキノコを目指し猛ダッシュして来ました。


小さなオッサンは一心不乱に走るのです。


その姿はまさに猛獣のごとくのようです。


わずか数センチしかないと思われる短い足を、高速で動かし走るのです。


それはとても人間の動きとは到底思えません。


非現実的な光景に私は啞然としてしまいました。


そして、小さなオッサンとキノコが接触した瞬間、衝撃的な現象が起こりました。


奇妙な音とともに、小さなオッサンの体が小刻みに高速で伸び縮みするのです。


私は恐ろしくなり悲鳴を上げてしました。


皆さん、考えてみて下さい。


人間が高速で体が伸び縮みするでしょうか?


答えはノーです。


それを目の当たりにした私はまさに恐怖の絶頂です。


私はあまりの恐怖に足の力が抜け、その場で崩れる落ちました。


その後、小さなオッサンは大きなオッサンへと変態を遂げたのです。


なんとオッサンはキノコと接触しただけで、身長が倍の大きさになったのです。


もう、驚きと恐怖で失禁しそうです。


しかも、キノコはオッサンと触れた瞬間に消滅してしまいました。


仮にそのキノコが人間を巨大化する成分があるとしても、それを食べるとうい手段ならば、多少は考えられます。


しかし、ただキノコに接触しただけで人間が倍の大きさになり、そのキノコも瞬時に消滅するのです。


私は失禁しそうと思っていましたが、すでに失禁していました。


その後、更なる衝撃が私を襲いました。


大きくなったオッサンが唐突にジャンプしたのです。


ジャンプした瞬間、「プーン」という奇怪な音がどこからともなく、聞こえました。


そして、大きくなったオッサンは私の頭上を飛び越えたのです。


棒高跳びの選手が棒を使いやっと飛び越える高さを、軽々と飛び越えるのです。


私は果たして現実を見ているのでしょうか・・・それとも私はすでに死んでいて、ここはすでに死後の世界なのでしょうか・・・。


私の足元には失禁のし過ぎで、尿の水たまりができていました。


その水たまりに映る自分の顔を確認すると、私はこれが現実だと再認識したのでした。




その後の三日間、私はキノコが怖くなり食べることができませんでした。

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