第4話ブラウン・ボールマン【ショートショート】

私はナナシ、今回も私の体験した不可思議な話を語らせていただきます。


その日はあまりの空腹のため、自分の右手親指をチューチューとしゃぶっていました。


すると私は背後からの強烈な視線を感じたのです。


危険を感じた私はすかさず後ろを振り向きました。


そこにいたのは「〇」でした。


丸いモノが目の前に突然現れたのです。


いや違います!


丸い頭をした人物でした。


私は硬直して身動きがとれませんでした。


なぜならば、その人物の顔は白目のない大きな黒い瞳孔をしており、鼻は真っ赤で巨大な円形をしていました。


いや、あれは鼻と呼ぶにはあまりにも不自然でした。


空気を吸う、鼻の穴はなく、真っ赤な円形の中央付近には正方形の白い四角状の何かが付着しているのです。


頬に位置する部分も、血液のように真っ赤に染まり、そこにも白い四角状の何かが付着しているのです。


私は瞬時にこれは顔を模した別の何かなのではと思ったのです。


その理由としては、口らしきものは有るのですが、その顔は常に無表情なのです。


いや、無表情を通り越して、感情が全くない顔を模した何かだったのです。


更に不自然なのはその服装です。


上下の赤の服にマントを纏っているのです。


皆さん、普通に生活をして、マントをする機会などありますか?


その答えはノーです。


この現代社会でマントをする機会など皆無に近いのです。


しかし、私の目の前にいる人物はマントをしているのです。


そのとき私は衝撃的な部分に気付きました。


その人物の手袋には指がないのです。


実際に指のほとんどない手袋はありますが、親指部分は最低限あるはずです。


その親指部分もなく、手というよりは、ただの楕円形の形をしているだけなのです。


そんな手で一体どんな日常生活を送っているのでしょうか?


片手でできる事はかなり制限されてしまします。


できるとすれば両手で何かを挟んで持ち上げるだけでしょう。


しかし、その人物は右手で自分の頭に触れると、突然自身の頭の一部を引き千切ったのです。


私はあまりの事に悲鳴を上げてしましました。


更に驚愕したのは、通常の人間ならば頭部にそのような、大きな損傷をすれば大量な血が噴き出すはずです。


しかし、その人物の引き千切られた頭部からは、血が噴き出すどころかなんの変化もないのです。


それどころかその人物は、それ程の損傷をしているのに表情をいっさい変えず、瞳孔しかない不気味な真っ黒な目で私を見続けるのです。


私はその不気味な目から無理やり目を背けました。


その視線に先にあったのは、その人物の右手に握られている頭部の一部でした。


いや、私は表現の仕方を間違えました。


頭部の一部は手で握られてはいないのです。


ただ円柱状の手の先端に頭部の一部がくっ付いているだけなのです。


例えるならば磁石に鉄がくっ付くかのように、頭部の一部が手の先端にくっ付いているのです。


その時、私は一つの疑問が浮かびました。


その指すらない手でどうやって自身の頭部の一部を引き千切ったのかと・・・。


私の背筋にゾッとする、衝撃が走りました。


その人物に触れられたら、私もあの頭部のように簡単に引き千切られてしまうのではないかと・・・。


「このままでは殺される!」


私の心はそう叫び、早くこの場から逃げなければと思いました。


しかし、恐怖のあまり私の足は、後退りする事しかできず、走って逃げることができませんでした。


そんな私のことなど気にも止めず、その人物は無表情なその不気味な顔で、私に近づいてくるのです。


しかも引き千切った自身の頭部を、私の目の前に突き出すのです。


私はその行動を見て、その人物がこう語りかけたのだと思いました。


「お前の頭も、この肉片のように引き千切ってやる」


そう思った私は、恐怖の絶頂です。


もう、逃げようとしても、足が全く動きません。


しかも、その人物は右手に持った頭部の一部を私の目の前に突き出したまま微動だにしません。


きっと恐怖する私の姿を見て楽しんでいるのでしょう。


顔は無表情ですが、その顔の奥にある禍々しいまでの悪意は私にはわかりました。


それほど、その人物には狂気じみた恐ろしさがあるのです。


きっと、数多くの者をその手で葬ってきたのでしょう。


硬直状態が続き、ついにその人物は次の行動に移しました。


今度は自分の両手を耳を塞ぐように頭部の側面にくっ付けたのです。


今度は頭部の側面を引き千切るのかと私は思いました。


しかし、現実に起こったのは、私の想像を遥かに超えてました。


なんとその人物は、自身の頭部を胴体から引き千切ったのです。


私はまたしても大きな悲鳴を上げてしまいました。


今回も血などは噴き出しません。


それどころか、その人物は頭部がないのに、まだ生存しているのです。


その不自然さが、更なる恐怖を私に植え付けるのです。


そして、引き千切った頭部の顔が私に見えるように、私の目の前に突き出すのです。


私の目の前には、口だけが笑みの形をした、無表情な頭部のような物体があるのです。


この人物は何がしたいのでしょうか・・・まさにサイコパスです。


引き千切られた頭部からは、感情のない大きな黒目が私を見つめ続けます。


私は心の中で絶望に耐え切れずこう囁いてしまいました。


「殺すなら、早く殺せ・・・」と


私は死を覚悟していました。


そして、更なる硬直した時間が過ぎていきました。


すると、その人物はなんと引き千切った自身の頭部を胴体の上に置きました。


なんとその頭部は、胴体に乗せただけでくっ付いたのです。


この世に取り外しできる頭部が存在したのです。


そして、その人物は何事もなかったかのように、空の彼方へと飛び去っていったのでした。


非現実的な事の連続で、空飛ぶ人間という驚愕する事すら私は疑問にも思わなくなっていました。


それどころが、自分がまだ生きている事への喜びが沸き上がってきなのです。


しかし、そんな私の喜びの感情に水を差すようなモノが、地面に落ちていました。


あの人物の頭部の一部です。


私は怒りに任せ、その頭部の一部を何度も何度も踏み潰しました。


そして私は少し冷静になり、あの人物は一体私に何をしたかったのかと疑問に思いました。


その疑問は未だに解決できていません。




しかし、それから三日間は丸い食べ物を食べようとは思いませんでした。

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