第2話 ザ・ラバーマン【ショートショート】

私はナナシ、今回も不思議な体験をしたので、ここに記録を残します。


あれは真冬の寒い日でした。


雪がパラつき、明日の朝は数センチくらい雪が積もるかもと思うような感じでした。


日も沈みかけ辺りが暗くなった道路の奥から人影が見えました。


その人影は徐々に私に近づいて来ます。


私は体を少し身構えました。


なぜならば、その人影はこの真冬というのに、麦わら帽子に半袖半ズボンという奇怪な服装をしていたからです。


心の中で危険な感じはしていたのですが、どんな顔なのだろうという好奇心があり、近づくその人物にワクワクする自分がいました。


顔が認識できる距離まで近づき私は横目で気付かれないように、チラッと顔を確認しました。


私は心臓が止まるほどの衝撃を受けました。


その顔にあったのは、到底人間の物とは思えない巨大な目が二つもあり、その巨大な目とは対極的に瞳は豆粒ほどしかないのです。


更になぜか片方の目の下にはマジックで書いたかのような、長い横線一本に短い縦線が二本書かれているのです。


驚愕してチラ見だけをするつもりが、ガン見してしまった私にその人物は私に微笑みかけたのです。


しかし、私はその微笑みが恐ろしくてたまりませんでした。


なぜならば、その口は耳まで裂け、下の口は顎に同化するかのように広がったのです。


その口から覗かせる、歯も人間の物とは思えませんでした。


上下に巨大な歯が一本づつ横に伸びているのです。


私は心の中で叫びました。


「喰われる!!」


その瞬間、遠くの方から女性の叫ぶ声がしました。


その声に私は驚きましたが、なんと私以上に驚いているのはその人物でした。


そしてその人物は何やら呪文のような言葉を叫び、体を身構えると勢いよく右手を突き上げたのです。


するとその右手は勢いよく伸び、マンションの4階のベランダへと向かっていきました。


私は驚きのあまり身動きができません。


更にその人物の背後には巨大な何かが突如現れたのです。


私にはその何かはカタカナのドーンという文字に見えました。


しかし、そんな事は現実の世界ではありえません。


私は驚きと困惑で呆然と立ち続けると、その人物はロケットのようにジャンプし、あっという間に消えていきました。


私は困惑の中、少し安堵していました。


自分の感情が乱れどうすればいいのかと考えている内に、その人物が私から離れていったからです。


しかし、その考えは甘かったとすぐに思い知らされました。


先ほど叫んでいた女性がこちらに猛スピードで近づいてくるのです。


そのスピードは人間の物とは思えません。


オリンピックに出場すれば余裕で金メダルを取れるでしょう。


しかも、女性の手足はあまりのスピードに残像して何本にも見えます。


もはや人間とは思えません。


更に近づくと女性の容姿も確認することができました。


胸は巨大に腫れあがり、腰はそれとは比べてられないほど細いのです。


その目は白目で顔の横まで吊り上がり、歯はノコギリの歯のようにギザギザになっているのです。


その女性、いやモンスターが私の方へ凄まじいスピードで近づいてくるのです。


私は思いました。


「殺される・・・」


死がまじかに感じると人の感覚は敏感になるものです。


女性のスピードがスローモーションに見え、その顔がはっきりと確認できるほどでした。


その顔はまるで鬼です。


死を覚悟した私は目を閉じました。


その後に凄い衝撃波が私の横を通り過ぎたのです。


女性は私に何の危害を加えずに、ただ通り過ぎただけでした。


私は失禁していました。


真冬の寒い路地で私は股間から湯気を出していたのでした。

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