幼馴染みには女子限定の親衛隊があった
「鈴木大輔くん、少しいいかしら」
放課後になって都と一緒に帰ろうとしたところ、大輔の前に三人の女子が現れた。
確か学校で都と話している女子たちだ。
「……何?」
早く帰ってアニメを見たいし、陰キャに女子と話すのはハードルが高いが、流石に無視するわけにはいかない。
都と話す時にと違って若干小声になってしまうものの、何とか声を出すことが出来た。
「あなたは星野さんと付き合っているのかしら?」
三人の真ん中に立っている黒髪ロングの大和撫子風の女子がグイっとこちらに顔を近づけて質問にしてきた。
見た目だけならいかにも育ちが良さそうな感じの女子だ。
「えっと……キミ、誰?」
現実の人間に興味がない大輔は、クラスメイトの名前などいちいち覚えていない。
「同じクラスになってもう一ヶ月たつのに、クラスメイトの名前を覚えていないのですか?」
彼女の長いまつ毛に縁取られた薄茶色い大きな瞳が驚いたように見開かれた。
確かに普通は一ヶ月ほどたてばクラスメイトの顔と名前くらいは覚えるかもしれないが、友達がいない大輔にとっては覚えるだけ時間の無駄だ。
「うん。興味ないし」
顔が近くて目を合わせられない大輔は、何とか声を出して首を縦に降る。
今まで都以外とこんなにも顔を近づけて話すことなどなかったため、今すぐにでも教室から出て行きたい気分だ。
早く都に来て欲しいが、クラスメイトの女子に捕まっていて、チラチラ、と視線をこちらに向けるだけで来れないらしい。
一緒に帰りたそうにしていても、流石に無視するわけにはいかないようだ。
男子に対しては冷たい態度を取る都だが、女子に対しては柔らかな態度を取る。
「私の名前は
「どうも。鈴木大輔、です」
自己紹介されたので、大輔も自己紹介で返す。
「自己紹介を終えたし、帰る」
「ちょっと待ちなさい」
都以外の人とこんなにも長い時間話したのは本当に久しぶりなため、陰キャの大輔にはしんどい時間だ。
だから早くこの場から逃げ出したいが、綾音に腕を掴まれたせいで動くことが出来ない。
「まだ私の質問に答えてないのに返すわけにはいかないわ」
「あー、都と付き合っているかどうかってやつ?」
「そうよ。答えるまで返す気はないわ。何せ私たちは……星野都の幸せを願う会――通称HMS会の会員なのだから」
綾音の言葉に他の二人が「うんうん」と頷く。
そういえば星野都の幸せを願う会というのは以前に都から聞いたことがあり、名前の通り彼女の幸せを願う人たちが集まった集団だ。
男子は都を自分の彼女にしたい、と思うから会員は女子だけらしい。
詳細は良く分からないが、基本的には都のことが好きな人たちが会員のようだ。
「星野さんは私たち女子ですら見惚れてしまうほどの美しさがあるの。それに男子に媚びを売らない凛とした態度もいいわね」
「ふーん」
「興味がなさそうね」
「親衛隊なんて全く興味ない、よ」
幼馴染みの都に親衛隊があったとしても、現実の人間に興味が持てないからあってもなくてもいい。
ただ、アイドルというわけでもないのに親衛隊が出来た都の人気さは素直に凄いとは思った。
「私たち親衛隊は星野さんに幸せになってほしいと思っているの。あなたが星野さんと付き合っているとして、星野さんを幸せにしなかったら私たちはあなたを許さない」
本気でそう思っていそうなほどに、綾音の言葉には威圧感がある。
「その心配なら無用だな」
イチャイチャしている時の都は幸せそうにしているし、これからも一緒にいることになるから少なくとも不幸にはならないだろう。
現実の人間に興味はない大輔とはいえ、都は幼馴染みで食事面で大変お世話になっているため、少なくとも不幸にはさせたくない。
お世話になっている分の恩を返さないほど愚かではないのだから。
「ならいいのだけど。あなたとイチャイチャしている時の星野さんは幸せそうな顔をしていたし、余計なお世話だったかしら」
はっきり言って余計なお世話だ、と発言したかったが、面倒なので止めておいた。
少なくとも大輔はHMS会の会員と話したくないと思っているため、その点においては余計なお世話だ。
出来ることなら放っておいてほしいのが本音であり、都以外の人とは関わりたくない。
「大ちゃんお待たせしました」
クラスメイトに捕まっていた都がようやく来た。
いつもよりしつこく話しかけられていたようなので、もしかしたら綾音が付き合っているのを確認するまで他のHMS会の会員が都を止めていたのかもしれない。
「星野さん、幸せになってくださいね」
大輔と話していた時とは違い、綾音は都に対しては物腰柔らかで丁寧な言葉遣いだ。
親衛隊なのだから対象の相手には丁寧な言葉を使うものなのだろう。
「大ちゃんに何か変なことはしてないですよね?」
珍しく都が女子に対して冷たい声だ。
「いえ、滅相もないです」
両手を広げて決して変なことはしてないです、と綾音は都に対してアピールしているかのようだった。
親衛隊だから都に嫌われたくはないだろう。
「ならいいですが。あなたたちが私の親衛隊なら見守るだけにしてくださいね」
「は、はい」
では失礼します、と口にした都に手を握られ、大輔は彼女と一緒に教室を出た。
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