第8話 口が悪くてもいいのです
結果、アホぼんは王太子になれなかった。為政者としての資質なしとされたのだ。
王妃は私との婚約解消直後からルイーゼ様に婚約を打診していたらしいが、公爵様はこうなることを予測していたのか、断っていた。
だったら学校での態度も注意しとけよ。
ルイーゼ様も泥船に乗る気までは無かった模様。結局、第一王子派閥で王妃の恩恵をたっぷり貰っていた伯爵家が、臣籍降下先に選ばれた。
大きな問題にしたくない陛下は、噂を流したりいじめの実行犯だったルイーゼ様には厳重注意。
クルトル伯爵令嬢はとっくの昔に国外へ逃げていた。一応高位貴族からの誘いを断れなかったと釈明はしていたので、陛下は放置した。
私も感謝こそすれ恨みは無い。引き際が素晴らしすぎるので、やっぱりハニートラップだったのかな。
結婚直後に夫婦として参加したパーティーで、第二王子と側近に話しかけられた。
もう王家に関わりたくは無いけれど、クレメンス様は元第二王子派閥なので仕方がない。
私と婚約したこともあって、今は堂々と王家から距離を置いているけどね。
「愚かな兄上と王妃が迷惑をかけて申し訳なかったね」
「終わった事ですから……」
本当にな! とは思ったけれど、返答は大人しい物にしておいた。
「でも、本来なら楽しい筈の学生生活を随分邪魔してしまっただろう?」
そうですね、と言いたかったがそこも堪えた。うっかり不興を買えば、クレメンス様に迷惑がかかる。
「兄上があの側近を選んだ時点でこうなることは予測できていたよ。本来なら、兄上が王太子になった方が対外的に痛くもない腹を探られなくてすんだのだけれど、仕方がないよねぇ」
友達を選ぶんじゃないんだから、側近は仲が良いという理由だけで選んではいけないよ、とか結構辛辣な王妃、兄、陛下の批判まで繰り出している。彼は毛色が違っていた。
噂には聞いていたけれど、兄弟仲は事実悪かったっぽい。そういう事情で王位継承権争いから離脱したくても出来なかったとか言っている。
だったらせめて暗殺とか止めてくれよ。それをしなかった時点で、私の中では殿下も同罪だ。
「私の側近にクレメンスも狙っていたんだけどねぇ? 上手に逃げられちゃったよ」
「自分にその様な器はございませんので」
クレメンス様が殊勝な表情をしているが、多分これ、クレメンス様は殿下の事を好きじゃなかったんだろうなと思う。性格的に。
「またまた~。エルテアルーナ嬢も気を付けた方がいいよ。おっと、今は夫人だったね。クレメンスは羊の皮を被った狼だから」
あっ、凄く嫌な感じ。
「知っていますよ。そういうちょっと腹黒な所も頼りになって素敵なんですから」
打ち返します。っていうか、ただただ清廉潔白な人だったら、私のこの本性を受け止めきれないだろう。
「おっと、これは……。失礼したね」
この和やか? な雰囲気なら、質問してもいいかな。ちょっと聞いてみたかった事がある。
「あの、不躾な質問をしてもよろしいでしょうか?」
「構わないよ。何だい?」
大人な返事。性格的には好きになれそうには無いけれど、為政者としてはアホぼんよりもよさそう。
「結局クルトル伯爵令嬢は、殿下側からのハニートラップだったのでしょうか?」
「くっ、あはははは! やっぱりエルテアルーナ嬢と婚約したかったなぁ。感付いた王妃に邪魔されなければ……」
クレメンス様がますます冷たい目付きと微笑みに変わってしまった。
第一だろうと第二だろうと、私はお断りです。
殿下はクレメンス様に落ち着くよう親しげに肩に手をかけていたが、クレメンス様は振り払っていた。
さすがに未来の王太子に対して、大丈夫なのかと心配してしまうわ。
冷遇されても私は構わないけれどね。私に借りがあり過ぎて、出来ないとは思うけど。
「彼女は純粋に玉の輿を狙っていただけで、私たちが全く興味を示さないから狙いを兄上たちに変えただけだよ」
なるほど。疑問がスッキリした。派閥関係なく狙うとはなかなか。引き際の素晴らしさから考えてもかなりの才女だな。
その後も軽い談笑をしたが、第二王子の側近たちは、一癖ふたくせもありそうな、腹黒そうな……。
巻き込まれたことに関しては業腹だが、この国の未来は一応安泰そうだ。
父の調査では、性格はアレかも知れんが、国家運営には問題なしって結論だったもんね。
その後、クレメンス様が、殿下がわざと私をエルテアルーナ嬢と何度も言っていたとぷんぷんしていた。
本人には言わないけれど、可愛い。そういう所も好きですよ。
兄が結婚式の後に、随分と口の悪い夫婦が誕生したな……とか言っていたけれど、気が合うんだからいいじゃない!
二人とも外向きは普通ですよ、普通! お互いに口が悪く腹黒い夫婦は、お互いのそれを長所だと言い切り、幸せに暮らしましたとさ。
猫かぶり令嬢の婚約 相澤 @aizawa9
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