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    *


 その「繰り返し」のしばらく後。

 ヴァイはやはり、まだもう少し〈此処〉で〝答え〟を探すことになるだろうという結論に至っていた。一方のアンも色々考えていたのだろう、〝何か〟を掴んだ様子だった。何度か終点を通り過ぎた後、ふと、アンが何か言いたげに、最後尾で佇んでいた。

「ねぇ、ヴァイさん。 ……私たち、一つ、約束をしませんか?」

 ヴァイが隣に立った途端、アンが真剣な表情かおをして、そんなことを口にする。そんな[彼女]の様子に面喰らいながら、ヴァイは先を促す。

「何をだ?」

「私たち、もう少し、この列車にいないといけないと思うんです。 今はできないけど……いつかは転生することができるはずです。 それで――転生した先でも、私たち、また〝出逢える〟よう、約束するんです」

 あまりに突拍子もないアンの提案に、思わずヴァイは面喰らった。……必ず〝出逢える〟という保証はないはずだ。けれど、アンの表情かおは本当に真剣そのもので、それでもやり遂げてみせるという強い意志が垣間見えた。どうしてそこまで、という疑問も浮かんだ。ひょっとして、ヴァイがアンに対して感じた〝もの〟を、同じように「彼女」も感じたのだろうか。

 ――考えれば考える程、無茶だとしか思えなかった。だが……それも悪くないかもしれないとヴァイは思えた。

「アン、お前は見習いだ。 きっと俺の方が先だぞ」

 答える代わりに、ヴァイはアンの頭をぐりぐりと乱暴に撫でながら、そう言った。すると、アンからは「ちょっと〜!」と抗議の声が上がったが、真剣な表情は変わらなかった。

「大丈夫です! 私がきっとヴァイさんを見つけますから!」

 ……普通、そういうことは男の方がするものだと思うが。そう言い張るアンが少し生意気に思えて、ヴァイは気が済むまで、「彼女」の頭をぐりぐりと乱暴に撫で続けた。アンからはまた「ちょっと〜!」という抗議の声が上がった。

「私、必ず見つけますから。 ――絶対見つけますから!」

 ヴァイが撫で終わると、アンがそう言って、[にぱっ]と笑った。その笑顔に根負けして、ヴァイは「……あぁ、頼むよ」とうなずいてみせた。

「約束の証に、何か……。 あ、そうだ! 名前、聞かせて下さい! 『ヴァイ』って本当の名前じゃないですよね?」

 同じ名前で転生できるかどうかなんて分からないのに、気休めのつもりだろうか、アンがそんなことを尋ねる。それでも良いかと思えて、いつだったかふと思い出した本来の名前をヴァイは口にした。

「――ルドヴァイン、だ。 お前は?」

「アンフェリカです」

「良い名前だ。 ……さあ、そろそろいくぞ」「はいっ!」

 うなずいて、アンが今までで一番明るく、[にぱっ]と笑った。ヴァイもうなずき返して、列車の方に向き直るのだった。


 ――こうして、ひとつの〝答え〟にたどり着いたふたりは、少しだけ、「前」へと歩き始めたのだった。

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