3.conductor・glimmer
3-1
*
――はじめは右も左も分からなかった。
その〝選択〟をした後、気が付くと運転席に〝彼〟は立っていた。列車の警笛が鳴り、顔を上げた後、辺りを見回すと、いつの間にか車掌の服がぽつんと椅子の上に置かれていた。
〝これから、あなたは車掌兼
どこからともなく、女性にも男性にも聞こえる中性的な〈声〉がきこえて来る。いわれるがまま、〝彼〟はその服に着替えると、少し左眼を気にしていた後かみを整えた。すると、今度は髪をまとめるためのゴム、黒の眼帯、車掌の帽子が現れたので、それらも全て身に着ける。
〝準備ができたようなので、少し説明をします。 〈わたし〉はひとりで走れますが、ヒトの力がある内は時々点検していただけると助かります。 しかし、これは優先事項ではありません。 最優先事項――あなたの主な「役割」は、乗り込む魂達を見守ること、次に、迷い込んだ「者」を導くことです。 加えて、駅ごとに「あるもの」を集め、〈わたし〉が走る線路を保つこともあなたの「役割」です。 ……それでは、よろしくお願いいたします〟
淡々と説明をした後、〈声〉はそれきりきこえなくなってしまった。仕方なく、〝彼〟は言われた通りに行動してみることにした。
すると、不思議なことに、初めてのことばかりなはずなのに、ほとんどのことが手に取るようにわかった。駅の構造も足を踏み入れた途端、頭に浮かんだ。〈声〉が説明した「あるもの」が星くずのかけらであることも、そして、集めたそれを最後尾の外側への扉から放つことで、星でできた線路になることもすぐにわかった。集めるのに必要なビンは、駅に着く前に、運転席に用意されていた。
次に、〈声〉がきこえて来たのは終点にたどり着く前だった。〈声〉は必ず終点に着く前に、星くずのかけらを放つよう指示した後、星くずのかけらが命の象徴と存在していることや、迷い込んだ「者」にとってどういう「役割」を持っているのかを、〝彼〟に説明した。……そして、迷い込んだ「者」が終点を通り過ぎると、どうなってしまうのか、わからないということを、説明したのもまた〈声〉だった。
説明をしている内に、列車は終点を通り過ぎようとしていた。その時――――。
――列車の警笛が、鳴り響いた。
〝終点を過ぎれば、〈わたし〉はまた走り始め、そしてまた終点を目指します。 その「繰り返し」を走り続けていくことが、〈わたし〉の「使命」なのです。 ……ですが、あなたがその「繰り返し」にずっと身を置くことはありません。 はじめに説明したように〈わたし〉はひとりで走れますから、「その時」が来れば、いつでも〈この列車〉を降りて構わないのですよ〟
それと同時に、〈声〉がそう語り掛けたかと思うと、気が付けば、〝彼〟は外側への扉の前に立っていた。しばらく、窓から、列車が星の線路を走り続けるのを眺めていたが、ふと、見当が付いていた〈声〉の正体に確信を持ち、列車を振り返る。
〝――そう、〈わたし〉は〈この列車〉自身です。 どこかで誰かが、〈わたし〉のことを
……それ以来、〈声〉――列車の〈声〉は時々しかきこえなくなってしまった。そのせいか、〝彼〟は列車に、独りで乗っているという感覚をもつようになってしまった。
永い間、〝答え〟を探しながら、ずっと独りで列車にいた。……もしかしたら、ずっと、それが続くのかもしれないとさえ、〝彼〟は思ってしまった。
それなのに――――。
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