2-5


 ふたりが連れられて来たのは一番後ろの車両だった。ヴァイはふたりを乗務員席へと案内し、そして、外側に繋がる扉を開け放ち、小さな星でできた線路を指差して言った。

「さあ、そのビンの中身を線路へと落としてみて下さい」

 ビンだけを外に向け、ニイナとルカは言われた通りに、その中身――星くずのかけらを線路に落としていく。

『うわぁ……!』

 星くずのかけらは速さや風の影響を受けず、まっすぐに線路へと落ちて行った。その途中で、星くずのかけらは金色に光り、小さな星に替わると、線路の一部となり輝き続ける。そして、電車はどこか生き生きとしているかのように速度を上げ、そんな線路の上を走り続けていた。

 ――そんな光景を見て、ふたりは思わず、同時に声を上げたのだった。

「星くずのかけらは〝命の灯〟の象徴として存在しているのです。 そして、そんな星くずのかけらからできた、星の線路を走るこの列車はいつしか、星灯列車スター・ライト・トレインと呼ばれるようになったのです。 この列車は魂を運ぶのを一番の目的として走っていますが、もう一つ別の大切な役割があると、わたくしは考えているのです」

 ふたりが星くずのかけらを全部落とし終えると、ヴァイがそう話し始める。

「――この列車は〝死〟という悲しい意味を持つ魂を運んでいるのと同時に、迷い込んだ人達にもう一度生きる希望を与えることができるのではないかと、わたくしは考えているのです。 だから、わたくしはあなたたちのような方々にあった時、いつも願っているのです。 ――どうか、生きてほしい、と。 あなたたちはまだお若い。 だから、生きてさえいれば、時には困難に立ち向かわなければならないこともあるでしょうが、きっと希望にあふれた良い事にも出合えるはずです。 ……けれど、あくまで〝答え〟を出すのは皆、自分自身なのです。 わたくしはしがない車掌兼案内人ガイドとして、あなたたちを見守っていますよ」

 力強い声でそう言い終えたヴァイが、今まで見せなかった優しい表情で笑った。ニイナは真剣な眼差しで〝彼〟を見つめる。ルカもその笑顔を見ながら、何かを考えているようだった。

 ふと、ヴァイが髪を整え、帽子を被り直すとこう言った。

「……さて、もうじき終点に着くようですよ。 プラットフォームに入ったら、今までにもあった同じような大きな扉と、改札があります。 ――戻りたいのであれば、改札を選び、きっぷを通して振り返らずに出なさい。 反対に、残りたいのであれば、扉の方を選び、覚悟して開けなさい。 ……わたくしはまだこの列車に乗っていなければならないので、ここに残ります。 見送ることはできませんが、あなたたちの幸福しあわせを祈っています。 あなたたちがどちらを選び、どんな〝答え〟を出そうとも、ね」

 ――そして、間もなく、電車は終点の駅に到着した。

 ニイナとルカはプラットフォームに降りると、どこかへと走り続けるスター・ライト・トレインを見送った。そして、その後しばらく、誰もいないその場に立ち尽くした。

 ……生きてさえいれば。先程のヴァイの言葉が、ニイナの頭をよぎる。ここに来るまでは我慢できないと思っていたが、今はもうそうではなかった。きっと、やらなければいけないことやできることがある。ニイナはそう思って、「あること」を決心した。

「ねぇ、ルカ。 もう〝答え〟は見つかった?」「うん」

 すぐにそう答えたルカはもう暗い顔をしていなかった。何か、決心をしたような、そんな表情だった。

 そんなルカの顔を見て、ニイナは彼が同じ思いを抱いていると確信した。……もう、彼がいなくなってしまうという不安も消えていた。

「――それじゃ、あたし、先に行ってるね」

 そう言い残して、ニイナは迷わず改札へと歩いて行く。そして、きっぷを通すと、ルカを信じて振り返ることなく、改札をまっすぐに通り抜けたのだった。


 ――その次の瞬間、目の前の光景が真っ白になる。


 気が付くと、新奈は元いた駅の前に立っていた。隣には流佳が立っていて、ふたりはいつの間にか手を繋いでいた。

 新奈が流佳を見つめると、彼はもう迷いのない、優しい笑顔を見せた。けれど、その笑顔をすぐに真剣な表情へと変え、彼女の手を強く握り、うなずいてみせた。そんな彼に、新奈はうなずき返した。

 あれから大分時間が経ったのか、空は夕焼けに染まっていて、もう夕方になっていた。――それでも、今からでも充分間に合うだろう。

『行こう』

 ――「行く」べき場所に。

 新奈と流佳はそう言って、同時に足を踏み出した。


 そうして、ふたりは〝前〟へと歩み始めたのだった。

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