2-3
その少し後、電車はドーム状の光に包まれた建物――駅に入り、停車した。駅の中には白い空間が広がっていた。中心部にはプラットフォームがあり、その脇にはホールのような広間が広がっていた。広間には一本だけ背の高い灯りが立っていて、両脇には木でできた小さな扉があり、空間の奥には大きな扉があった。
電車の扉が開くと、「人々」の何人かはゆらゆらと電車を降りていったが、残った「人々」はぴくりとも動かず、そのまま立ち尽くしていた。
降りていく「人々」がいなくなった後、ニイナとルカは電車を降りた。見ると、プラットフォームから少し離れた所に立っている看板の側に、ヴァイが待っていた。
「さあ、こちらですよ」
そう声を掛け、ヴァイは灯りの方へと向かい、左側の扉へと進んだ。懐から鍵を取り出し、扉を開ける。
「わぁ、きれい……!!」
扉の向こうには草木や花が生い茂った庭園が広がっていた。その庭園には、ホタルに似ている、小さな黄色の光がいくつも浮かんでいた。光は強くなったり弱くなったりを繰り返していた。
「これはね、星くずのかけら、というんですよ。 ビンをお渡ししますので、その中にできるだけたくさんこれを集めて下さい。 駅には三十分ほど滞在する予定です。 出発の五分前には列車のクラクションを鳴らしますから、それまで頑張って下さい。 ……この星くずのかけらはあの列車――スター・ライト・トレインに欠かせないものなので、よろしくお願いします」
そう説明をして、ヴァイはニイナとルカに、巨大な空ビンを渡す。そして、微笑みながら一礼すると、庭園を後にした。
空ビンを足元に下ろすと、ニイナは恐る恐る星くずのかけらに触れる。すると、星くずのかけらは少し宙に舞い上がった。手が届かなくなる前に、ニイナはその光を両手で包み込んだ。そして、そのまま空ビンに向けて放つと、星くずのかけらはその中に留まった。
本来なら何も感じないはずたが、星くずのかけらにはふわふわとした感触がある気がした。……この不思議な光は一体、電車の何に役立つのだろう。ニイナはそんな疑問を抱きながら、星くずのかけらを集め始める。
続けていると、いつしかそんな疑問も忘れ、だんだん楽しくなって、ニイナは思わず笑いをこぼしていた。ルカの方も時々、笑いながら、星くずのかけらを集めている。
「楽しいね、ルカ」「うんっ!」
その後も、ニイナはルカと他愛もない話をしながら、どんどん星くずのかけらを集め続けた。そうしている内に、五分前を知らせる電車のクラクションがなった。庭園の星くずのかけらはかなり減り、代わりに空ビンの三分の一が埋まっていた。
ビンを持って、ニイナとルカは電車へと戻り、元いた座席に座った。間もなく、電車が出発すると、ヴァイがふたりを訪れた。
「どうやらたくさん集めて下さったようですね。 ありがとうございます。 次の駅でもよろしくお願いします」
ビンを見て、満足そうに話して去って行くヴァイを見送り、ニイナとルカは顔を見合わせ、思わず笑いをこぼした。
ふたりとも、次の駅に着くのが楽しみにしていたのだ。そんなことをお互いに話しながら、ふたりは次の駅までの時間を過ごしたのだった。
次の駅からはニイナとルカだけで庭園に向かうことになった。扉の鍵はヴァイがあらかじめ開けているようだった。また、ヴァイは電車で待機をすることにしたらしく、ふたりには「前の要領で大丈夫です」とだけ告げた。どの駅の造りも同じだったので、ふたりは迷うこともなかった。
五分前のクラクションが鳴るまで星くずのかけらを集める――何駅もずっとその繰り返しだった。最初の頃は楽しく思えていたが、電車がどんどん遠くへ行く程、ニイナは不安になっていた。ルカも同じように不安そうにしている上、何か、思うところがあるようでだんだん険しい表情をするようにもなっていた。
「ねぇ、ヴァイさん。 教えて、この電車って一体何なの?」
ビンがほぼ満杯になった時、ニイナは思い切って、星くずのかけらの量を確認しにやって来たヴァイにそう尋ねた。
一瞬困ったような表情を見せ、ヴァイはニイナとルカの顔をまじまじと見つめた。そして、髪を整え、帽子を被り直すと、彼女の質問に答えた。
「実を言うと、この列車は死者の魂を運ぶ列車なのです。 あなたたちはこの列車に迷い込んでしまったのです。 迷い込んだお客様は皆〝特別〟で、ある選択をすることができます。 ――あなたたちも、終点の駅でその〝答え〟を出すことになります。 わたくしはそのお手伝いをするため、あなたたちに星くずのかけらを集めていただいていたのです。 ……あともう少しで、終点に着きます。 わたくしはあなたたちが良い〝答え〟を出すのを期待しています」
ヴァイの話を聞いて、不安に思ったニイナはルカの方へ目をやる。……ルカは険しい
「ルカ……? 大丈夫?」
声を掛けられ、ルカが顔を上げた。うなずくと微笑んでみせたが、無理をしているようにしか見えなかった。一層不安になって、ニイナは彼にこう語り掛ける。
「ねぇ、ルカ。 あたし達、一緒に行こうね」
ニイナの言葉に、ルカの返事はなかった。――彼はただ、彼女の顔をじっと見つめるだけだった。
……ちゃんと答えてよ、ルカ。彼がどこかへ消えてしまいそうで、思わずニイナは彼の手を取った。そうしている内は、ルカはどこにも行かない。そう思ったからだった。
次の駅に着くまで、ニイナは何も話さず、ルカの手を握っていた。彼の方もその手をほどくことなく、ただ黙り込んでいるのだった。
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