2-2


 ――ほどなくして、電車がトンネルを抜ける。


 なぜか車内の電気が消えないまま、電車は走り続けていた。

 ニイナはまだ人々を見つめ続けていたが、心なしか先程より人々がぼやけて見えたため、首をひねった。

「ねぇ、ニイナ、見て」

 ふと、窓の外をまじまじと見つめているルカに声を掛けられ、ニイナは振り向いた。そして、なぜか青ざめている彼のことを怪訝に思いながら、ニイナも窓の外へ目をやる。

「うわぁ……!!」

 ――窓の外には星空が広がっていた。電車は、小さな星でできた線路の上に沿って走って――飛んでいたのだ。しばらく窓の外を眺めていると、遠くの方に、ドーム状の光に包まれた建物があった。それが駅だろうか。

「一体どうなってるんだろう、この電車!」

 ニイナは上ずった声でそう呟く。ひょっとすると、今乗っている人々も「人」ではないのかもしれない。まだ驚いているのだろうか、ルカは黙ったままだった。

「――……お客様、きっぷチケット拝見、ご協力お願いします」

 不意に誰かから声を掛けられ、ニイナは度肝を抜かれた。見ると、車掌と思われる男性が座席のすぐ側に立っていた。

 音もなく現れたせいなのか、ニイナは〝彼〟が怪しい人物に思えた。赤に近い茶色の乱れた髪を一つに結び、左目には真っ黒な眼帯が着けられている。唯一見えている右目は黒に近い青色――今走っている星空を思わせるような色だった。〝彼〟も「人」ではないのだろうか。……車掌の制服を着ていなかったら、もっと警戒していただろう。

 最初に、ルカがきっぷを取り出して、〝彼〟――車掌に差し出す。その途中、なぜかきっぷをじっと不思議そうに眺めていた。

「あれ……?」

 慌ててニイナもきっぷを出し、それを見た瞬間思わず呟いていた。不思議なことに、きっぷが購入した時とは違うもの――まるでタロットカードのような形に変化していたのだ。裏は何もなく真っ黒で、青色をした表には複数の星が描かれている。

「失礼しますね」

 ニイナが眺めていると、車掌はそう言いながら、彼女のきっぷを回収した。そして、ニイナとルカのきっぷを、右目を細めながらじっと見つめて唸る。

「ふむ、どうやらお客様たちは〝特別〟なようです。 ……一つお願いがあるのですが、どうかわたくしを手伝っていただけませんか? わたくしはヴァイ、ガイドと車掌をしております。 もしよろしければお名前を教えていただけますか?」

 そう話す車掌――ヴァイを少しの間、ニイナは見つめる。……怪しく見えるが、悪い人でもないらしい。ニイナはルカに目配せをして、彼がうなずいたことを確認すると、簡単に自己紹介をする。

「あたし、ニイナ。 で、こっちの彼がルカ。 ねえ、ヴァイさん。 この電車は何なの? 一体、どこまで行くの?」

 ヴァイの説明によれば、ニイナとルカはどういう訳か、この不思議な電車に乗り込んでしまったようだった。ちゃんと家に帰れるのか、これからどうすれば良いのか、気になることがいくつかあったが、とりあえずそれだけをヴァイに尋ねた。

 ヴァイはにっこり笑ってみせ、どこか遠くの方を見つめて黙り込んだ。……どうやら、今は答える気はないらしい。

「大丈夫、あなたたち次第ではありますが、戻れますよ」

 少ししてから、笑ったままヴァイがそう告げた。それを聞いて、ニイナはもう一度ルカに目配せをする。どのみち、当分帰れそうにないし、特にあてもないのだ。彼も同じことを考えていたのか、うなずいて応える。

「……分かった。 あたしたち、ヴァイさんのお手伝い、するね」

「ありがとうございます。 では、次の駅で落ち合いましょう」

 どこか満足そうにそう言って、ヴァイはニイナとルカにきっぷを返して、すぐに隣の車両へと向かってしまった。

 もう一度変化したきっぷを見つめた後、ニイナはきっぷをポケットにしまった。どんな手伝いをするのだろうという期待の気持ちと、「戻れる」と言われたがやはり少し不安な気持ち。そんな二つの気持ちに板挟みになりながら、ニイナはルカの方をふと見つめる。

 ルカの方も何か考えているようで、どこか暗くて複雑な表情をして、黙り込んでいたのだった。

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