第332話 夜の事情2


 宿屋の店主に教えてもらったとおりに進むと迷う事なく案内所に着く事が出来た。


案内所はこぢんまりとした感じで、中に入るとカウンターしかない作りだった。


カウンターに近づくと奥から黒いスーツのような服を着た50代ぐらいの男性が声を掛けてくる。


「はじめてか?」


中々渋い声だ。


「はい。」


素直に答える。


「だろうな‥。そんなにキョロキョロしていたら誰にでもわかる事だ。」


自分的にはキョロキョロしたつもりが無かったので思わず恥ずかしくなってしまった。


「食事、酒、娼館のどれだ?」


特に初めて案内所に来たことについて何も言われることもなく、淡々と案内が始まった。


「し、娼館でお願いします。」


俺が娼館だと告げると一瞬眉毛がピクッと反応したが、特に何も言わずに俺の事を足先から順に観察していく。


「まさか童貞か?」


渋い声でとんでもないことを言われてしまう。


「さすがにそれはないです。妻もいますし‥。」


また男の眉がピクッと反応する。


「嫁がいるのに浮気か??」


男が少し殺気を込めてくる。


まさか案内所の人にそんな事を言われるとは‥。


さて、嫁に娼館に行く事を勧められたとは言えず、目の前の良い人に何て説明しようかと頭を悩ませるのであった。

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