第30話 諦め


その後、ゾンさんは仕事に戻り、雪花・ニーナ・イリスさん達には今後の生活用品の買い出しを頼んだ。雪花がかなりごねたが「俺のものは雪花に買ってきて欲しい!」と耳元で言ったら、納得してくれた。雪花、チョロい。


俺と璃水はバウさんの不動産屋に向かっていた。

「さっき、雪花先輩に言ったのなんっすか?意味わからないっす。あれで納得するってどんどけチョロいっすか?」

「雪花は純粋なんだよ。」

「先輩がバカなだけじゃ‥」と璃水が言いかけた時、地面の出っ張りにつまずきそうになった。思わず璃水を抱きしめる。

「大丈夫か?」

「ありがとうっす。」璃水が顔を真っ赤にする。お前もチョロいと思うぞ。


不動産屋の中に入り、バウさんに声をかける。

「バウさん、こんにちは。薬が手に入ったので執事さんに合わせてもらえますか?」

「もう手に入れられたのですか?さすがですね‥、分かりました。連れてまいりますので、イチロー様と璃水様は個室にてお待ち下さい。」

「璃水はさっき冒険者登録したばかりですよ。」実は冒険者ギルドを出る前についでに俺と雪花以外の登録を済ませてきていた。

「プロですので‥」

いや、まじこの人、怖いんですけど!

俺、監視されてるの?冒険者ギルドに盗聴器でもあるの?

バウさんに恐怖しながら、個室に案内された。


それから数分後、バウさんが1人の女性を乗せた車椅子を押して部屋に入ってきた。

座っているので身長は分からないが、ゾンさんに匹敵するぐらいのナイスバディ、綺麗な銀髪、かなりの美少女だ、思わず息を呑む。

「執事さんと聞いてましたが、女性だったんですね?」

「とくにイチロー様に、尋ねられなかったので伝えていませんでした。申し訳ございません。」くそー、またバウさんに一本取られた。


気を取り直して、挨拶をする。

「イチローと言います、あと妻の璃水になります、今日は宜しくお願いします。」

女性から返事はない、完全無視だ。

バウさんに促されてやっと口を開いてくれた。

「ステアです。」終わりかい!

「イチロー様、大変申し訳ございません。ステアは、とある公爵の執事でしたが、馬車の移動中に狼に襲われまして‥」

バウさんが言葉を詰まらせる。

「ここからは、自分で話します!」ステアさんが話に割り込んできた。

「私は狼ごときに遅れは取りません!必死に戦っていたら仲間に背後から刺されて、その場に置いてかれたのです!ようは囮にされたのです!!普段の私なら背後なんて取らせないのに、焦っていたのでしょう‥。しかも仲間だったので油断してました。」唇を噛んで悔しがっている‥。


その後は、偶然通りかかったバウさんが助けて保護したとのこと。刺された傷は治ったけど、狼に足をズタズタにされた傷は治らなくて今も歩けない。

足の傷もだけど、心の傷も深そうだな。


「どうせあなたも期待させて、治せないんでしょ!バウさんも、もう私のことなんて見捨てて結構です。」

バウさんも治してあげようと何度もチャレンジしてるんだ。


「ごめん、治せる保証はないけど、俺にチャンスをくれない?」

「勝手にして下さい!どうせ、ダメでしょうが‥」


ステアさんが何事にも諦めたような目をする。あの目を見ると心がざわつく。異世界に転移する前の自分と同じ目をしているからだ。無性に腹が立って仕方がない。


「璃水、薬を出して。1番効果が高いのを。」

「了解っす。今出せるのはこれが1番っす。」璃水が一つの壺を渡してきた。

ステアさんがスカートの裾をあげる。すると細い真っ白な足にそぐわないグチャグチャになった傷が顔を出す。

壺から緑色のドロドロの液体を手ですくいステアさんの足に塗り込んでいく。

すると少しずつ傷が治っていく。

その後もぬり続けるが、完治まではいかなかった。


神様!見てるんですよね?どうしたらいいですか?

「正直、おすすめできんのじゃが‥」

いいから教えて下さい!

「魔力を込めるんじゃ。って最後まで聞かんか!どうなっても知らんぞ!」

ありったけの魔力を込める。

すると傷口が光出す。

うっ、気分が悪くなってきた。また心臓を掴まれるような感覚だ。さらに込めると鼻血が垂れてきた。

「イチロー様、お辞め下さい!」バウさんが止めに入る。

「イッチー辞めて!」璃水が止めに入る。

最後にステアが「どうして私の為にそこまでしてくれるの?」と涙を流しながら俺に問いくる。

「そんな人生に絶望した顔なんかするな。何か昔の自分を見ているようでムカつく。困っている人を助けるのは、日本人として当たり前なんだよ!」

その後、口から血を吐いたのは覚えているけど、その後意識を失った。

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