第12話 受付嬢さんとの攻防2


「あっ、あんた所にネズミがいる」ベールさんがいきなり部屋の隅を指差す。

バカですか?今どき、そんな単純な手に引っかかる人間はいないよ。

「えっ?どこですか?」雪女が引っかかったよ。


しまった、思わずベールさんが指差した方向でなく、雪花を見てしまった。気がついたらカレンさんが目の前にいる。この人、本当に受付嬢なのか?

あー、俺、この流れ知ってる。

まだだ!俺はまだ終わっていない。

顔の前に腕をクロスしてガードだ。

甘いよカレンさん。大甘だよ。俺に同じ攻撃は効かない!!

あれ?カレンさんが片手で俺のクロスした両手を持ち上げた。俺の力が弱いのか、カレンさんが単純に強いのか?いや、今はそれは関係ない。

カレンさんの顔が近づいてきた。

くそー、どうしたらいいんだ。

よし、かがもう!これならどうだ。

俺がかがもうとしたら、俺の足の間にカレンさんの足を入れられた。万事休すかぁ。

いや、まだ負けん!こうなったら最後の手段だ。上唇と下唇を口の中に隠せばキスは成立しない!また永遠の誓いなんて言われたら大変だ。カレンさんごめん。あなたのことは忘れないよ。

あっ、空いている方の手で頬を掴まれた。鉄壁の防御が崩された。全然鉄壁じゃないじゃん!

はい、俺の負け!!カレンさんにキスされてます。途中から舌まで入ってきたよ。


「えー、ネズミなんていませんが?」雪花は本当にネズミがいると思っているみたいだ。雪花さん、旦那さんが襲われてますよ、助けて。


それから数分して、カレンさんが離してくれた。俺は唇を手で何度も拭いた。


「私のファーストキスなので、有り難く思って下さい。」カレンさんが、少し照れながらウインクしてきた。

うーん、可愛いんだけど、29歳でファーストキスって。あれだけ可愛くてファーストキスがまだって‥‥かなり奥手なのか‥山にでもこもってたのか‥性格に問題があるのか‥家柄に問題があるのか‥怖そうだから詮索するのはやめとこう。


さて、どうしたもんかな。とりあえずは「なかなか活発なお嬢さんですね。こちらの国では、こういった挨拶が流行りですか?」一郎が誤魔化しにはしった。


「いいえ、プロポーズを兼ねたキスです。」

うわぁー、ど直球で返してきたー。

「ちなみに断るわけには‥」

「イチロー様は正式に受け入れてくれましたので、私達は夫婦になりました。」


正式ってなんだよ!受け入れたって、舌を入れられたからそれに応えただけじゃん。じゃー、断る時は舌でも噛めばいいの?


「お嬢、おめでとうございます。」

「ベール、ありがとう!200年待った甲斐がありました。あなたのアシストのおかけです。」


何かこいつらムカつくなぁ。いっそ、雪花に凍らせて、そのままとんずらでもするか‥。一郎が物騒なことを考えていると頭の中に声が響いてきた。

「流石にそんなことしたら、生きたまま地獄にでも転移させるぞ!」神様から怒られた。

「いやー、冗談ですよ。でも酷くないですか?まだ転移してから一日もたってないのに嫁さん二人ですよ。しかも、しかもですよ。大事なので2回言いますが、妖怪じゃなくて現地の人間ですよ?異世界転移のこと秘密にして生活するんですよ!雪花の能力だって、疑われますよ。正直、秘密を抱えたままでは、しんどいです。」

「結婚したなら秘密を打ち明けてもよいぞ。」

「えっ?でも離婚とかしたら、どうするんですか?」

「お主は雪花・カレンと永遠の誓いを行なっておる。」

「度々出てきますが、永遠の誓いって何ですか?何か物騒な気がするんですが‥」

「永遠の誓いとは、命をかけた制約じゃ。離婚なぞ出来ん。仮に離れた場所にいようと、運命が必ず二人を結びつける。あと伴侶が死んだ場合、一緒に死ぬことも可能になる。一緒に死んだ場合、輪廻転生後、また二人を結ぼうとする。一応、その時は選択可能じゃがの。」

「‥‥何ですかその縛りは?一種の呪いですか?何で出会ったばっかりの俺とそんな誓いをたてるんですかね‥。そもそも、そういった誓いは一人だけじゃないのですか?」

「おっ、なかなか鋭いな。もちろん、この世界では、永遠の誓いは一回しか使えん。」

「えっ、でも俺は二回してますよね?」

「それなんじゃが、どうもお前さんが死しても女の子を助けたことに感動した、他の神が上限を解放したようじゃ。そもそもワシが与えた力は妖怪召喚だけじゃ。他の魔法などは、他の神のせいじゃよ。」


魔法に関しては、有り難かったな。でも鑑定や収納のせいでカレンさんに捕まったようなものだし‥プラマイゼロかな。

「魔法に関しては、本当にたすかってます。力をくれた神様にお礼を言っといて下さい、宜しくお願いします。」

「「「気にするな。頑張れよ!」」」

!?何か複数の声が聞こえたような‥。まぁ、お礼も言えたし、良しとするか。

「あと、こん世界は何人とでも結婚できるぞ。なんせ異世界じゃからの。増えれば増えるだけ、男の甲斐性って考えじゃ。たしかエルフの王の妻は400ぐらいじゃったかの」

400って、もし子供が出来ていたら、もうプロ野球のリーグが出来るよ。さすが、異世界はハンパねー。


「最後に一ついいですか?永遠の誓いのキスを避ける方法はないですか?」

「それじゃったら、殴るか、舌を噛めばいいじゃろ?」

「いゃ、どこのアウトロー!」

「そもそも、お前さんが少しでも拒めば、誓いを行うことは出来んぞ。お主、キスささる瞬間、可愛いとか綺麗とか思わなかったか?完全に拒めば、誓いは成立せん。」

「くそー、二人とも今まで出会った中でもトップクラスの美人さんだからなぁ。そりゃー、少しは興味は湧くよ。男の子なんだから。」

「29にもなって、男の子はないじゃろ?若いうちは遊んでたろ?四人も経験あるんだし。」

「はい、もう諦めました。今後は家でも手に入れて、自給自足して、スローライフを満喫しますよ。」

「まぁ、そんな簡単にはいかんじゃろうがな。せいぜい、楽しむと良い。また気が向いたら連絡するからの。あと最後に、そのカレンという子は人間じゃないぞ、では。」


!?最後に爆弾落としていきやがった。

えー、人間じゃないの?まさか偽装してるのか。初級鑑定が仇となったか‥。とりあえず結婚はさけられないから、お互い腹を割って話す必要があるようだ。


神様との会話中は時間が止まっているようで、終わったとたん時が動き出す。


「旦那様、ちょっといいですか?」雪花が笑顔で話しかけてきた。目が笑ってないよ。あれ?この展開、ちょっと前にあったような‥。

「正座!」

やっぱり!また怒られる展開かぁ‥。

「夫婦とは、どういうことでしょうか?」

ここは正直に話すか‥。

「雪花がネズミって騙されてるうちに、カレンさんに無理やり手籠にされました。」嘘は言ってないよなぁ。


雪花から、物凄い殺気が出ている。

「イチロー様は、そこで少しお待ち下さい」雪花は一郎を残し、カレンの所に行ってしまった。


最初は険悪なムードだったけど、だんだん和気あいあいとしてきたなぁ。あっ、雪花の顔がものすごく真っ赤になってる。何が話し合われているのかなぁ。雪花とカレンさんが近づいてきた。


「イチロー様、お立ち下さい」

「カレン様と話し合いを行い、私が第一夫人、カレン様が第二夫人となる事が決まりました。今後、順番が変わることはありません。」

「雪花さん、私に様はいりませんよ。カレンとお呼び下さい。もちろん、イチロー様もです。」

「それでしたら、私のことも雪花とお呼び下さい。」

「わかったわ、雪花。二人でイチロー様を支えていきましょう!」


何か、二人が盛り上がっているようなので、特に何も言わないようにしよう。


「今後については、明日にでも話し合いましょう!私も何かと準備がありますので。イチロー様も雪花もそれでいい?」

「わかった。とりあえず買取を終わらせて、カレンおすすめの洋服屋と宿屋を教えて。」

「わかりました。ベール、買取を進めて。」


やっと買取が進むよ。何かものすごく長い時間過ごしているような。まだ異世界にきて、一日目が終わってないのに‥。

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