第11話 受付嬢さんとの攻防1


さて、説明も受けたし後は買取りかな。


「すいません、角のあるうさぎを買い取ってもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」

「角のあるうさぎですか?それはホーンラビットですね。それでしたら、たしか討伐の依頼があったと思いますので、掲示板にある依頼書をお持ち下さい。」

なるほど、それだったら依頼料も入るし、一石二鳥だ。なかなかやるな、この受付嬢。美人で仕事が出来て‥あっ、また嫁さんから冷気が‥。


気を取り直して、掲示板に向かい、ホーンラビットの依頼を探す。掲示板には所狭しと依頼が貼ってある。すげーSランクのがある。なになに、ブラックドラゴンに地龍の希少種など、絶対に受けないであろう依頼もあった。

たしかホーンラビットは55匹いたから、10と15と30の依頼でいいのかな。

俺は三枚の依頼書をもって受付嬢さんを目指す。


「依頼はこれになります」受付嬢さんに三枚の依頼書を渡す。

「えっ?三枚もですか?ちょっと待って下さい。全部で55匹ですか?ホーンラビットは弱いんですが、臆病でなかなか人前には出てこないので、人気ないんですよね、この依頼も何ヶ月も貼りっぱなしでしたし。それを55匹も‥‥。この人、見た目はパッとしないけど、もしかしたら有望かも。受け答えは丁寧だし、ちょっと変わってるけど、優しそうだし。うーん、あと一押しかなぁ」


なんか後半から心の声が漏れ出してるかも。目つきもがかわってきた。大丈夫かなこの人。ちょっと怖くなってきた。嫌な予感してきたから、鑑定してみようかな。


若干の不安があったので、目の前の受付嬢さんを鑑定してみる。あっ、この前の失敗があるから、初級鑑定!


【名前】カレン

【年齢】29歳

【種族】人族

【経験人数】0


【スキル】計算、家事

【特技】なんとなく相手の嘘がわかる。体に触れるとさらに正解率があがる。

【魔法】

【最近の悩み】

先月も後輩が結婚してギルド内の独身者が減って肩身がせまい。しかも29にもなってまだ付き合ったことがない。早く有望な新人を見つけてゲットしたい。顔はある程度は妥協するので‥。また借りている部屋の両隣から毎晩聞こえてくるアレの声に悩まされている。



この人、痛!しかも中級鑑定との違いはスリーサイズぐらい?ってか、最近の悩みって何?雪花の時、出なかったよね??神様の嫌がらせ?あと特技コワ!こんな特技があるからずっと彼氏出来ないんじゃないかな。


「カレンさん、何か問題でもありますか?」

カレンさんが目を見開いて驚いている。

「何で私の名前が分かるんですか?まだ一度も名乗ってないのに。まさか鑑定が使えるの?!」

やべぇー、やっちまったなぁ、俺。

「えっ?さっき他の人が呼んでましたよ」

「誰も呼んでませんでしたよ。」カレンさんが手を掴んできた。一瞬雪花が攻撃しそうになったので、手で制した。流石にギルド内での揉め事はまずい。


「嘘ですね。私、相手の嘘がわかるんですよ。」汗が止まらない。

「そういえば、相手を触れば嘘がわかる特技でしたね」

カレンさんの目がさらに大きくなる。

俺のバカ!口が滑ってしまった。さっきから滑りまくりだよ。

「特技まで分かるんですか?まさか付き合ったことがないことまでとは言わないですよね」手を掴まれているので嘘は言えない。カレンさんの顔がどんどん赤くなってきた。俺が出来ることは、気にするなと言わんばかりに笑顔で彼女の肩を数回叩いてあげた。

カレンさんは、悲鳴を上げて奥の部屋に走っていった。


「旦那様、ちょっといいですか?」雪花が笑顔で話しかけてきた。目が笑ってないよ。

「流石に今のは旦那様が悪いですよ。女性に対して失礼です。」嫁さん激オコです。

「いやでも‥」

「正座!」嫁さんに正座させられてます。周りを見ると他の受付嬢さんや冒険者が冷たい目を向けてくる。

とりあえず、まずは雪花さんだね。

「私が軽率でした。今後は気をつけます。」深々と頭を下げた。

「わかってくれればいいです。あと、あまり他の女性と一緒にいるのも‥」

後半は聞こえにくかったが概ねヤキモチをやいてくれたのがわかった。

「ごめんね、心配かけて」立ち上がって、雪花を抱きしめる。

「私を泣かせといて、自分は他の女性とイチャイチャですか?」

いきなり背後から声をかけられた。

いつの間に戻ってきたの?全然気配を感じなかった。索敵が効かないの?


慌てて雪花を離し、カレンさんに頭を下げる。

「先程は大変失礼しました。カレンさんを傷つけてしまい、大変申し訳ございません。私が出来ることであれば何でもしますので。」

カレンさんの目が一瞬光ったように見えた。

「何でもですね?わかりました、とりあえず謝罪は受けますので、頭を上げて下さい」

良かった、カレンさんが許してくれた。


「そういえば依頼の話でしたね。通常であればギルドカードを持っていれば、死体がなくても討伐の確認は出来ます。しかし、今回はギルドカードがない状態でしたのでホーンラビットの死体を提出してもらいます。もちろんそのまま、買取りも行いますのでご安心ください」

「カウンターには55匹も載せられないので地下の買取り所に持ってきてもらえますか?私は先に行ってますので。」

「わかりました。ちょっとしてから向かいます。」カレンさんには先に降りてもらった。

「では、俺たちも向かいます」雪花と手を繋いで階段を降りていった。


地下はかなり広い空間だった。全体的にひんやりとした空気だ。大きなグラウンドのような場所もある。たぶん訓練とかランクアップの実技とかあるんだろうな。

あっ、カレンさんを見つけた。なんかいかつい獣人のおっさんと一緒だ。あれは熊かな。顔に傷があって、腕なんて丸太だよ。ほとんど魔物じゃん。


「お待たせしました。」カレンさんに声をかける。しかし、カレンさんからの返答はない。何か怒りのオーラが出ている。目線をたどったら俺と雪花が手を繋いでるところを見ていた。

しまった、雪花と仲直りのつもりで手を繋いでたの忘れてた。あいたた‥。とにかく手を離す。


「では、ホーンラビットはどこにおけばいいですか?」

「あぁ、ここでいいぞ。あと俺のことはベールと呼んでくれ。」

「そういえば、イチロー様は手ぶらですよね?ホーンラビットはどこですか?」

カレンさんが不思議がってるので、収納からホーンラビット55匹を取り出す。

木の台の上には、ホーンラビットの死体の山が出来ていた。

「イチロー様、まさか収納もお持ちですか?」カレンさんがまた手を握ろうとしたので、面倒なので正直に話すことにした。

「はい、収納も持ってますよ。もしかして貴重だったりしますか?」

「貴重ですよ。持っている人は大体商人の方が多いですし、冒険者でも上位の人に数人いるぐらいです。なりたての冒険者が鑑定と収納を持ってるのは、初めてです。」カレンさんが震えてる。


神様、話しが違います。スローライフを過ごすために無双スキルなしで転移してきたのに。まさか異世界テンプレセットがレアだとは‥。目立ちたくないのに。


「お嬢、話し中に申し訳ない。ちょっといいですか?」

「ベール!ギルドではお嬢とは呼ばないで!!」

「すみません、お嬢」

「だから、言ってるそばから!!」

うわぁー、あんな強そうなおっさんが、カレンさんに謝ってる。カレンさんってまさか、どこかのお偉いさんの娘とか?鑑定使いたいけど、余計な情報もみえるからなぁ。


「で、ベール、そんなに慌ててどうしたの?」

「実は、このホーンラビット、傷がないんです!毒で殺した様子もないし、角も毛皮も無傷です。一匹だけ、傷のあるのもありますが、残りの状態は完璧です。」


そりゃー、傷なんてないよ。雪花が急速冷凍して一度殺してから、解凍してるから。

雪花はすごいよなぁ。思わず雪花の頭を撫でてあげる。雪花も照れながら抱きついてきた。あー、うちの嫁さん、最高!


「イチロー様!!ちょっとよろしいですか?」カレンさんの目が据わってる。

「はい、何でしょうか?」

「このホーンラビットはどうしたのですか?何かの毒物で殺してのですか?それでしたらお肉は食べられなくなりますが‥」

「いえ、殺し方は企業秘密ですが、安心安全なお肉ですよ。たぶん寄生虫とかも死んでるから内蔵とかも食べられますよ。」

「企業の意味がわかりませんが、秘密ということは教えてもらえないということでしょうか?」

「そうですね、こればかりは教えることは出来ません。ちなみに雪花は嫁さんですので、全て知ってます(知ってるというか、やった張本人だねどね)」

「その方、お嫁さんでしたのね。仲良さそうですものね。」なんかカレンさんの顔が怖い。覚悟を決めたような目をしてる。やばい、嫌な予感がする。雪花守ってね。

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