本日のオヤツ

 落下を始めてすぐに体がフワッと浮き上がる感じがした。無駄に叫ぶのをやめてうつ伏せに体勢を急いで整え空を滑空。薄目で見えるのはホブゴブリンの村、尻尾が切れもがくマウンテン鼠とそれに怒り任せに飛ばされる精霊樹の残骸。

 最後の光景がこれって……。


 死への恐怖はもちろんある。でも、不思議と心は落ち着いている。ギンとオハギを側に感じるので2人のおかげかもしれない。

 ギンちゃん。これ、妖精パワーでどうにかならない? ギンちゃん?

 返事がないので、右肩を見ればギンは根を張っていた。えぇぇ。今、この状況で根を張るの?


「疲れて休んでるの! でも、大丈夫なの!」


 気持ちよさそうに落下の風を感じながらオハギが言う。

 何が大丈夫なの? ねぇ、何が!

 落下し始めて数秒。だんだん加速しているのが分かる。目もほとんど開けることができないほどの風が顔を襲う。

 1秒、1秒がゆっくり進む。こんなにも1秒は長いのもの? 


「——」


 耳元では風を切る音がうるさく、はっきり聞こえないけど頭上からサダコの声がしたような気がした。


「カエデさん!」


 後ろから腹に回された手でサダコに捕まれ引き上げられる。腹にかかった圧迫でグェェと声が出る。

 引き上げたサダコだが、様子がおかしい。急ブレーキをかけるように落下の勢いを止めようとするも、すぐにバランスを崩す。

 サダコの腕に更に力が入って苦しかったが、使っているのが左腕だけだということに気づく。サダコの状態を確認しようとしたが、2人で仲良く絡まりながら宙をクルクルと回転しながら落下する。


「カ……上……いきます!」


 は? なんて? 聞こえない。

 回りながらもサダコの放つ魔法で以前よりもかなり減速はしている。

 でも、問題は着陸地点。その地点は、どう考えてもマウンテン鼠の上! やめてくれ!

 サダコの状態も何を考えているかもわからないまま、もうマウンテン鼠への着地が確実になるところまで下降する。

 サダコはマウンテン鼠の背中なら、汚いがまだ柔らかいと思って向かった? ムカデ槍とあれがぶつかる音を聞いていたよね? あれ、絶対柔らかくないって!

 背中のどこに落ちても痛い予感しかない。落ちる回転と速度が徐々に減速しているから、背中のどこかに水の魔石でプールを作れば、落ちても死にはしない……はず。

 左手で水の魔石を握りしめ緩やかになった回転の中、落下場所を定めようとしマウンテン鼠を見れば——


 マウンテン鼠が口を全開で私たちが落ちるのを待っている。


 一直線にマウンテン鼠の口へと落ちていく。親近感あるなこれ。でも、今回はベニの黒キノコはない。


「やだぁぁぁぁぁ」

「シールド!」


 サダコの水の魔法が玉のように私たちを包むと、そのままマウンテン鼠に呑まれた。


 

 



 

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