上空の組体操

 やめてという声も虚しく、マウンテン鼠を見下ろすほどの高度な位置まで上昇。


「ここからならよく見えるでしょう?」


 サダコが宙を蹴りながら誇らしげに言う。下を見て、その高さに足が少しすくむ。想像より飛んでるし、それにめっちゃ寒いし。ブルブルと勝手に歯軋りが起きシバリングが始まる。


「しゃむいって!」


 精一杯の声を出すとオハギの黒煙の炎がポンポンと私の周りに現れ、凍えそうな身体の温度が正常に保たれる。

 ダンジョンなのに、上空の温度差や季節感など妙なところが外と似ている。

 肩の上に乗ったオハギを撫で礼を言う。


「オハギ、ありがとう」

「大丈夫なの!」

「ギンも!」


 見ればオハギの黒煙の周りにギンのパチパチと輝くビリビリが見える。ギンにも礼を言い、サダコを睨みつける。


「サダコ、ちょっと顔をこっちに寄せて」


 躊躇せずに顔を寄せてきたサダコの両頬を摘む。


「はにするのほでづか」

「いや、これだけで済んでいるのを感謝してほしんだけど」

「はにがでづか?」

「急に私を空へご招待するのやめて。せめて先に聞いて。下からでも攻撃いけそうだったんだし」


 頬から手を離すと、サダコが申し訳なさそうな顔をして謝る。


「突っ走ってしまいすみません。それに人が温度に敏感だということを忘れていました」


 確かに上空のほうが視界がよく、地面の揺れを考えなくてよいので狙いを定めやすい。これに関してはサダコが正解。確かに正解なんだが、いきなり私の同意なしはアウト。


「結果的にこちらの方がマウンテン鼠を狙いやすそうだからいいけど、次回からはよろしく」

「はい、もちろんです」


 ギンのビリビリも出ていないので悪意がないことはわかっている。結果的には念願のフライングカエデができたら、これ以上文句はない。


 マウンテン鼠に視線を移せば、結界をガジガジナメナメしている。あれ、ホブゴブリンの村のある内側から見れば、超絶グロテスクな光景。想像しただけで吐きそう。


「今がチャンスだし、攻撃をしたいんだけどこの体勢じゃ無理」

「では、これはどうですか?」


 お姫様抱っこから米俵を担ぐように肩に乗せられる。


「無理じゃね? サダコと逆方向を向いてるし」

「では、脇を持ってみます」


 そう言われて、脇だけ上に持ち上げられる。普通に高い高いしてるだけじゃん! 


「できれば、腕は自由に動ける格好じゃないと狙いにくい」

「それならば——」


 色々と恥ずかしい格好をさせられた挙句、結局は後ろからギュッと腹部分を持たれる形で落ち着いた。オハギとギンも楽しそうに私たちの組体操の真似をした。空中でなんの時間よ、これ。こんなのただの時間ロスだし。

 オハギの上に乗ったギンが嬉しそうに「攻撃するだえ〜」とマウンテン鼠を指差す。

 可愛い。可愛いよ。可愛いけど全員緊張感がなさすぎる。これって、もしかして妖精のあるある?

 ホブゴブリン村を覆う結界から強烈な異音がする。

 結界がもう持たない。サダコと顔を合わせる。


「サダコ、もっと鼠に近づいて。撃つ前に合図するから」


 勘付かれないよう、徐々にマウンテン鼠へと下降。尻尾の付け根から相当近い場所で止まると、サダコが声を潜ませて耳打ちする。


「この位置が限界です。これ以上は気づかれるだけでなく、尻尾の攻撃をされたら当たります」

「うん。じゃあ、やるね」


 石の魔石を握りしめ、目を瞑り乾坤一擲けんこんいってきの鋭い槍をイメージする。集中しながらじっくりと練り上げる。

 巨大な刃

 マウンテン鼠の尻尾を斬り落とせる刃

 硬いダイアモンドのような強さの刃


 大きな大きな大きな大きな。


「カ、カエデさん……」


 困惑したサダコの声は耳では聞こえたが、集中力の高まりからその音はまるでBGMのようだった。

 目をカッと開け唱える。


「石バンバン!」


 






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