穴が多い作戦

「あと一発……」


 サダコの顔がみるみると暗くなる。いや、私だって巨大石バンバンを無限撃ちしたい気持ちはあるって! でも、あの大きさの石を撃つ時に伝わる反動……肩の筋肉の間にガラス玉を詰めて、その上をハンマーで打っているのかなってくらい痛い、とにかく痛い。痛いの反対。


「そ、そうですか。無理を言ってすみません」


 シュンとしたサダコがうどんのテンションの落ちた時にそっくりなんだけど。何この人、93歳のはずなんだけ。天然あざと可愛いいんだけど!

 ああ、もう!


「あの大きさのだったらあと一回。でも、もっと近づく事が出来れば小さいのはある程度の数は撃てる」


 希望が見えたことで、サダコの見えない犬耳が立つ。


「どれほどに近づけばいいのですか?」

「普通に考えて、あの尻尾ブンブンの範囲外で一番近いところなんだけど……あのサイズに小さいの撃ち込んでもダメージが少なそうじゃない?」


 なんせあの巨体。小さい石バンバンを数多く撃っても意味がない。


「手足はどうですか?」

「いや、足の筋肉見た? 無理じゃん。それこそ、かすり傷だって。それに手はどこよ? 巨体で見えないんだけど」


 尻尾はピンクだから黒い巨体の目印になって狙いが定めやすいけれど、奴の他の部分のボディは真っ黒。手はその巨体と同化しているよう錯覚するほど位置が曖昧。足は進化したマッスル。アキレス腱に当てればいける? いや、鼠のアキレス腱がどこにあるか知らないし!


「カエデ~あそこ~」


 ギンの指す方角を双眼鏡で見れば、マウンテン鼠から湧き出たハデカラットの群が里の一箇所を集中攻撃している。結界にぶつかっては崩れ落ち、地面へと転がる。いやいや、特攻じゃん。

 結界……あの調子で攻撃を受け続けてどれほど持つの?


「うーん。よくないな」


 マウンテン鼠の足と尻を確認。もう完全にこちらに背を向けているが、ブンブンと警戒して振られる尻尾は残像が見えるほど速い。あれは、やっぱり切り落とすべき。尻尾の根本は固定されてる。そこが一番に狙いやすい。尻尾さえなくなれば、直接本体にスパキラ剣でグサグサできるし、ホブゴブリンたちも攻撃しやすくなる……はず。短時間しか作戦を練れないのが痛い。大丈夫かと聞かれれば、全く不安しかない作戦だって! 

 腰にあるスパキラ剣を触るとカタカタと揺れる。


「うん。あの尻尾を切り落とそう」

「近くまで行けば、上空から攻撃のお手伝いできます」

「ん? どういうこと?」


 どうやらサダコが抱っこして空を飛んでくれるようだ。確かに上空から狙った方が地上より尻尾の付け根を狙えるだろうが……やる気の満ちたサダコの顔が楽しそうでやや不安になったので一応確認をする。


「石での攻撃は反動が結構な衝撃だけど……いける?」

「鍛えていますが、落ちてもカエデさんを守ります」

「変なフラグ立てるのやめて」





 

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