サダコ

「ん。それで、普通に話しかけて来たけど、どうしたん? 昨日は超絶アンチ人族だったじゃん」

「それは……」


 サダコが少し困ったようにうつむき、チラリとこちらに視線を送る。まるで流し目を送られているかのような艶っぽい表情。シーラのメロンのような色気ではない。なんせ、サダコも柿だから。そこは、私のお仲間だ。

 昨日は面倒な奴だと思ってサダコの顔なんて気にしていなかったけど、こうやってちゃんと見ると結構美人じゃん。黒に近い暗緑色のストレートの束ねた髪にアーモンドアイの一重と鼻筋の通った小さな鼻。古風な雰囲気だけど目を引く容姿。よく言えば大和撫子、悪く言えば幸薄い美人顔だ。


「あの……」


 サダコの顔を凝視し過ぎた? 恥ずかしそうにサダコが自分の顔を撫で隠す。


「カエデさん、私たちは先に家に戻って下着の制作に取り掛かりますね」


 ダリアとバンズはサダコにも軽く挨拶、家の中へと戻る。

 二人は気を利かせたのだろうが、なんとも言えないサダコとの微妙な雰囲気に気づいて欲しい。二人きりは辛いんだけど……

 少し経っても黙っているサダコに声をかける。


「それで、なんの用なん?」

「しぇ、謝罪に来ました」


 普通に噛んだし。昨日のアンチ人族とはずいぶんと印象が違う。こっちが本当のサダコ?  


「昨日は理不尽な態度を取ってしまって……申し訳ありません。黒い髪を見て、実父を連想して感情的になってしまいました。父にも叱られました」

「父ってだれ?」

「長老補佐のホブゴブリンです」


 長老補佐? あー、髪の長い50代に見えるホブゴブリンね。

 自分の父は育ての親である補佐のホブゴブリンとのこと。でも、明らかにこちらにキヨシのことを訊ねたいって感じじゃん。90代のファザーコンプレックスをカエデちゃんにどうして欲しいん?

 サダコが言うには記憶は生まれた時からあり、キヨシが去った日の記憶も覚えているらしい。


「生まれた初日から記憶があるん?」

「ホブゴブリンは皆そうです」

「そうなん?」


 妖精の特殊能力? 自分の一番古い記憶を辿ってみる。

 ――あったあった。2~3歳児のころに家の庭の泥を食べて吐き出しているワンシーンを思い出す。最悪じゃん。本気でこれが一番古い記憶なん?

 ホブゴブリンは生まれた時から記憶あるって……容姿はともかくサダコも半分はれっきとした妖精ってことか。人族とホブゴブリンのミックス……なんて呼べばいいん? ヒブリン、いやホブ人。


「昨日のこと、思い出させ……また気を悪くさせましたか?」

「は? いや、全然」

「本当に申し訳ございません」

「そんなに何回も謝らなくてもいいって。昨日の事も特に気にしてないし。私も色々余計なこと言ったし。両成敗的にお互い忘れたらいいじゃん」

「ありがとうございます」


 頭を下げ帰ろうとするサダコの後ろ姿があまりにも幸の薄い哀愁が漂う。たぶん、本当はキヨシのことを聞きに来たんじゃないかと思う。

 キヨシは人族だ。年齢的にはもうすでに亡くなっていることなんてサダコだって分かっているはず。それでも繋がりを探すサダコに日本に帰りたい自分を重ねる。

 ため息をつき、サダコを引き止める。


「見つけたキヨシの遺品があるから」




 

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