回し車のナイスガイ
平和な(?)夕食の時間も終了。腹がはち切れそう。喉まで食べ物入ってるんじゃね? あと一口でも食べたら、入ったものを全部吐き出しそう。
「夕食ありがとうございました。私はこれで失礼します」
「サダコ、もう帰るのか?」
ダリアたちの兄が引き止めようとしたが、サダコは丁重に夕食の礼を言い帰宅した。
夕食の席で互いに何度か視線を交わしたが、サダコとは結局何も話しはできなかった。主にダリアたちの兄のマシンガントークのせいで。サダコを独り占めにしたいのは分かったけど……普通にドン引き。それとも、あれがホブゴブリンの愛情表現なん?
隣にいるダリアに尋ねる。
「ホブゴブリンって、みんなあんなに情熱的(?)なん?」
「兄さんだけです」
言葉を遮るように死んだ目のダリアが即答で返事をする。
やっぱりホブゴブリンの常識で見てもあれは異常なのか。
サダコが帰った後、しょんぼりしていた兄ホブゴブリンが声をかけてくる。
「カエデ、疲れただろう? みんなで座っていてくれ、茶をいれる」
「ありがとう」
「気にするな。客人はゆっくりしてくれ」
普通に良い人なんだけど、好きな女性に空回りするタイプなんだろうな。健気な兄ホブゴブリンの顔がハムスターに見えてきた。
お茶を飲みながら団欒、お土産に持って帰ってきた黒芋と甘芋は蒸され、食後のデザートとして出てきた。
(まだ食うんかい!)
一番大きい芋を食べるようダリアの母親に勧められたが、本気でリビングがゲロのスプラッター現場になりそうだったので強めに拒否をする。私以外は全員、芋を手に取り嬉しそうに頬張る。
「この黒い芋は初めて食べたな。確かに美味しい。これだったら、畑でも増やせるか?」
「父さん、こっちの甘芋も食べてみて。黒芋のほうが栽培は簡単だけど、甘芋は収穫できれば新しい甘味にもなるよ」
芋への愛が止まらないバンズが父ホブゴブリンに黒芋と甘芋の必要性を栽培方法の詳細と共にアピールをする。
バンズは、いつの間にそんな情報を手に入れたん?
里の近くで取れる芋は山芋や里芋のような粘りが強いものらしく、父ホブゴブリンも真剣にバンズの話を聞く。
二人が芋について話が盛り上がっていたのを遮るように兄ホブゴブリンが大声で宣言する。
「父さん、今の話を聞いて俺はやはりサダコに求婚しようと思う」
おい! 今の話って、芋の話しかしてしてないし!
「客人もいるんだ。その話はまた後でな」
父ホブゴブリンが宥めるように言うと、兄ホブゴブリンは静かになった。
リビングは気まずい雰囲気になったけど、眠くて仕方がない。何度もあくびをした私をみかねたダリアの母親が奥の部屋へと案内する。
「カエデちゃん、こちらで休んでね。私たちは寝る時間が少ないからベッドはないけど、こちらのスーを使ってちょうだいね」
「ありがとうございます」
スーと呼ばれたのは、吊り下げられた白いネット素材のハンモック。
「それではゆっくりしてちょうだい」
ダリアの母親が退室するのと同時にハンモックに座る。ああ……やばい。この伸縮性のあるネットの全身をすっぽりと包むフィット感。心地よく揺れるフワフワとした感じがタマラナイ。
腰を深く沈め天井を眺めていたら、いつのまにか意識を手放していた。
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