目指せフードファイター
「カエデさんは、ここに座って下さい。サダコちゃんはここね」
ダリアに食事の席に案内される。円卓は、ダリア、バンズ、ダリアたちの兄、父、母、そして私とサダコで囲まれた。
あれから、ダリアたちの家に戻りすぐに食事の席に着かされているんだけど……話、途中だったと思うんだけど? あれで、終わりなん? 別にサダコとあれ以上もめたくなかったし、いいけど……なんとなくモヤッとする。
先程はダリアの父親が『夕食を食べる時間だ』と言っただけで変なムードから一転、サダコと私以外一気に明るい雰囲気になった。ホブゴブリンジョークなのかと思ったけど、イシゾウも『食事は重要。今日はもう帰りなさい』と言う始末。
あっという間にイシゾウの大理石の部屋を退室させられ、サダコもやや無理やりに夕食に誘われ……全員で帰宅して今に至る。
今日の夕食はダリアたちの無事を祝って特別に豪華なのか、とにかく量が多い。円卓には隙間なく食べ物が並べられている。もちろん肉はない。だが、どれもとても美味しそうではある。
「二人の好物ばかりを作ったのよ」
「美味しそう!」
「お母さんありがとう!」
ダリアとバンズが母親にハグをして頬にキスをする。
「それでは、二人が戻ってきたことを精霊に感謝。今日も美味しい物をありがとう」
ダリアの父親が食事の祈りのような言葉を言い終えると、それぞれが一斉に好きな食べ物を皿に載せ始める。
あ、ユキとうどん……。
「ユキたちにも夕食を与えてくる」
自分の食べ物を皿に盛る前に中座しようとしたら、隣に座っていたダリアの母親に声をかけられる。
「カエデさん、お皿に食べ物を取り分けておきましょうか?」
「あ、はい」
特に何も考えずにダリアの母親に皿を渡しお願いする。
外に出てユキとうどんを呼び、肉を与える。ハデカラットで二匹とも腹がいっぱいかもしれないと心配したけど……
「普通にめっちゃ食うじゃん」
二匹がまだ足りないと言う表情をしたので追加肉を投げる。
「これで足りるでしょ? この辺で勝手に狩りとかしないでよ。ユキちゃん、よろしく」
ユキが舌なめずりをした後にあくびをして返事を返す。ちゃんと分かったのかな?
「カエデ~、あれ~」
ギンが草むらのほうをさしながら何かをおねだりする。
「これ? これ石だよ」
「その隣~」
「その隣って……それ、キノコじゃん!」
石の横には、茶色い小さなシメジに似たキノコが一本。ギンはこれが欲しいらしい。
同じキノコだし……どうしようかと躊躇したが、欲しい欲しいとお願いするギンには敵わずキノコを与えてしまう。ギンを甘やかし過ぎているかもしれないが、可愛いので仕方ない。
家の中に戻り、ギンに玉も与える。
ギンは私の肩の上に玉を置きキノコを重ねると、その上に乗り根を張った。
(共食いじゃね?)
「うーん。まぁ、大丈夫……? ギンちゃん、お休みなさい」
円卓の席に戻るとダリアの母親から食べ物が載った皿を渡される。
「カエデさん、どうぞ」
「え、ちょ」
「たくさん食べてちょうだい」
目の前にドンッと置かれた皿には、マッシュカブとにんじんが山のように盛られ、その回りには今日の夕食で準備された全ての種類の料理が取り分けられていた。
「こんなに食べられないし」
「あら、そういえば人族は小食だったわね」
いや、ホブゴブリンが大食いなだけじゃん!
残してもいいと言われたが、とりあえず出された山を食べ始める。
食べながら目の前に座るサダコに視線を移すとダリアの兄からロックオンされているのか、隣に座る兄のお喋りが止まらない。
「サダコ、今日はカブが美味いぞ」
「ありがとう。自分で取り分けたから大丈夫よ」
「そんなちょっとじゃ足りないだろ? ほら、俺が盛ってやる」
遠慮するサダコの皿を奪い、ダリアの兄がサービススプーンいっぱいに食べ物を何度も盛る。カブがこぼれそうなほど盛られた皿を受け取ったサダコは苦笑いしながら礼を言うが、正直迷惑そうだ。兄ぃ、空回りしてんじゃん。
それにしても、ホブゴブリンは食べる量が違う。ダリアとバンズも確かによく食べるとは思っていたけど、家族全員がこれでもかってくらい食べ物を皿に盛っている。サダコは小食なのか、少量をゆっくりと口に運んでいる。彼女の胃袋は人間サイドなのかもしれない。
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