石に花咲く

 家の外に出ると、ユキとうどんは豪快にとある植物の中でリラックスしていた。


「ちょっと、何を人の家に植えてある草の中で寝てんの!?」

「カエデさん、気にしなくて大丈夫よ。あの草は頑丈だから」


 ダリアの母親がそう言うが、2匹に『行くよ』と声をかける。

 渋々草から出てきた2匹に何度もクンクンと衣装を嗅がれる。この布に編み込んである動物の毛が気になるのだろう。


「それじゃ、行ってくる」

「帰ってきたら、夕食をみんなで食べられるように準備しておくわね」


 長老のいる場所まで、ダリアの父親、私、ダリア、バンズ、それからユキとうどんの順で歩きながら向かう。

 時刻は18:30。外は昼間に到着した時と同じ明るさ。


「外、明るい」

「はい。一日中、この明るさです」


 ダリアが後ろを歩きながら答える。

 白夜的な? 大体ここは『どこ』なのだろう? 迷いの森とも草原のあった場所とも違う。空を見上げても太陽的な物も雲もない。ここは、ホブゴブリンの生活に合わせた何かの空間?

 歩いている細道の左右には、ところどころにホブゴブリンの家がある。私が珍しいのか、中には外に出てこちらを見ている者たちもいる。

 細道を行き交う老人のホブゴブリンに挨拶をされる。


「噂の人族か。珍しい色だなぁ。良い格好で長老様のところか?」

「ああ、そうだ。またな」

「うむうむ」


 ダリアの父親が代わりに返事をしてくれたが、ずいぶんと年寄りのホブゴブリンだった。あの人の年齢が気になるところだが、黙々と進むダリアたちの父親を追いかける。

 段々と向かう場所は分かってきた。最初に見えていた巨大樹に向かっている。

 途中からホブゴブリンの家が無くなり巨大樹のうねる根っこの前に到着する。

 ダリアの父親が足を止め、振り向く。


「ここだ」

「根っこしかないけど……」

「ああ、少し待ってくれ」


 うねっていた根っこがモゾモゾと動き退くと、奥に扉が見えた。ああ……マジカルタイムか。この巨大樹は意志があるのか?

 巨大樹を見上げるが、天辺は見えない。遠くからも斑点が見えていたが、根のところどころにも黒と灰色の斑点が見える。


 ダリアの父親が奥の扉に手をかざすと、手首が光り扉が開く。

 中から髪の長い50代に見えるホブゴブリンが出てきた。長老様か?

 後ろからは、20代に見える黒に近い暗緑色の髪の人族(?)の女性が出てきた。


(ホブゴブリンにしては、肌色が全然違う。変装中なのか?)


「ホブゴブリン、娘と息子の無事の帰還、良かったな。人族の娘もホブゴブリンの里へよく来た。私は長老の補佐のホブゴブリンだ」


 あ、補佐か。了解。後ろの女性の紹介は無し。紹介は別にいいけど、どうせ『ホブゴブリン』だろ。


「カエデです。よろしくお願いします」

「みな、中に入ってくれ。長老様もお待ちだ」


 扉の中に入ると、外からは想像できない繊細で美しい大理石で埋め尽くされた空間だった。

 案内されたのは、絨毯の敷いてある床。そこに座るよう言われたので、ダリアたちの見よう見まねで、あぐらを組んで座り下を向く。ユキたちも私の隣に腰を下ろす。

 座って少しの間は静かだったが、ガラッと重い物が動く音が聞こえた。

 音がした後、すぐにダリアの父親が挨拶を始める。


「長老様、ホブゴブリンです」


 特に返事は聞こえなかったので、気になってチラッと顔を上げる。


「……石じゃん」



 

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