ビリビリの刺激

「それよりユキちゃん! バンズは?」


 急に投げ出され服をビリビリに破かれた衝撃で完全にバンズの事を忘れていた。


「僕は大丈夫」

「バンズ、どこにいたん?」


 どうやらバンズもユキから投げ出されたが、無事に少し離れた草むらに着地。ハデカラットには襲われなかったがビリビリに服を裂かれている私を見て出るに出れなくなったようだ。

 バンズが裂かれた服に群がるハデカラットから視線を逸らし尋ねる。


「大丈夫?」

「バンズ、見苦しい物見せて、なんかごめん。ユキも悪いけど、あの妖精のせいだから」

「ヴュー」

「事実でしょ!?」


 ユキは納得いかないって顔だけど、服をビリビリ裂きながら絶対に楽しんでいた。絶対にそうだ。

 駆けつけたダリアを乗せたうどんが大量のハデカラットに歓喜の声を上げる。


「カエデさん、大丈夫ですか?」

「うん。追いかけられた原因はあのかけられた妖精液だった」

「鼠が群がって食いちぎっている布ですか?」

「うん。あれ私の服だった布ね」


 さて、ハデカラットを燃やすと言ったけど着火剤がない。ログハウスの床収納の中に黄色の魔石もあったけど….ちまちま1匹ずつ燃やしても埒があかない。大きな魔石じゃないので一気に全部を燃やせないのは確実。

 群がったハデカラットの集団から漏れた数匹が襲いかかってくる。

 咄嗟のことにダリアが精霊魔法の水で押し除け、ハデカラットは地面へ転がる。泥水で汚れたその姿はますます子豚に見える。

 そろそろ、かけられた妖精液の効果が切れ始めたのか? 他のハデカラットも先程よりも執拗に破れた服に襲いかかっていない。

 ダリアの水に濡れ地面に転がった泥水ハデカラットが数匹再び襲ってくる。


「ビリビリだえ~」


 ギンのいつもより強いビリビリを食らったハデカラットは身体が硬直し地面に崩れ落ちる。死んではいないようだが、すぐには身動きが取れそうにもない。倒れ動けないハデカラットをスパキラ剣で刺す。これは——


「ギンちゃん、今のビリビリより強いの出せる?」

「もっと強いの?」

「そうそう。強いビリビリ」

「出せるだえ~」


 ああ、これだ。ギンのビリビリでハデカラットを全部始末しよう。


 いつの間にか、群がったハデカラットを引きずり出し美味しくいただいているユキとうどん。


「ユキ、うどん、数匹確保して少し離れて食べてくれる?」

「キャウン」


 うどんが元気よく返事したのはいいが、欲張りなのか10匹ほどを律儀に1匹ずつズルズルと遠くへ引っ張っていく。早くして!

 ユキは仕留めたハデカラットを後ろ足で蹴り10メートルほど離れた場所へ積み上げる。


「もう、終わった?」


 2匹が確保した餌の元へ行ったので、ダリアとバンズに得意な水魔法でハデカラットのいる場所を全てを水浸しにして欲しいとお願いする。精霊魔法の水は純水だろうからビリビリが電流と同じならあまり通さないような気がするが、地面の泥とかと混じれば問題ないでしょ。多分。中学の理科の実験を思い出すが、よく覚えていない。まぁいいや。成功しなかったら石の魔石の連射で仕留めるか。


「はい。それなら、すぐにできます」

「終わったら遠くに離れて。絶対に水には触らないで」

「「はい」」


 ダリアとバンズの手から水のシャワーが大量に出てハデカラットの上に降り注ぐ。結構な量でるじゃん。2人が水を出し終えたところでハデカラットの頭上に大きな虹が出る。ハデカラットの足元には大きな水溜りができている。これならいけるか? 


「キラキラだえ~」

「ギンちゃん、あれは虹だよ」

「虹だえ~」

「うん、じゃあ、ギンちゃんビリビリお願いね」


 ダリアとバンズが水溜まりから離れたのを確認して、私も数歩下がる。

 ギンの魔法は相手が悪意がないと効かないようなので、ダリアが私に着いた妖精液を拭いてくれたタオルを出しハデカラットの注意を引く。

 タオルを出した瞬間、ハデカラットがこちらへと次々に向かってくる。


「ギンちゃん、今!」

「大きいビリビリだえ~」


 一瞬の光の眩しさとバネのような鈍い音が聞こえたと思ったら、目の前のハデカラットは全て地面に倒れていた。一番手前のハデカラットからは煙が上がっている。いったいどれ程のアンペアの電流が奴らに流れたのだろうか? 実際こんなに簡単に成功するん? それともマジカルな補正?


(成功したからどっちでもいいや)


「ギンちゃん、大丈夫?」

「ビリビリ~」


 平気そうだけど、今日はもうこれ以上ビリビリは要らないと伝える。

 手前のハデカラットは事切れているようだが、その他は気絶しているだけで生きていたので、スパキラ剣のグサグサタイムで始末。

 ダリアに素材をどうするのか尋ねられる。


「歯はどうしますか?」

「いや、もう全部そのまま埋めようかと思ったけど?」

「「採取します!」」


 別にいいけど。

 私の2人に混じりハデカラットの歯を採取。


 歯の採取が終わり、無事鼠の墓も作ったところでユキとうどんの様子を確認。ユキは満足そうに横になり、うどんは——


「クゥーン」


 また食い過ぎじゃん!



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