知らなくて良い事を一つ学んでも嬉しくない
「ダリアもバンズも足元に気をつけて」
穴を下りると、再び左右に分かれたトンネル。エコーして聞こえるのは、ゴブリンの汚い声。遠そう。
さて、左右のどちらに向かおうか。
「ユキちゃん、どう?」
ユキは、どうやらゴブリン臭で鼻が効いていないよう。しかめっ面でこちらを見ている。うどんも苦しそうに鼻を押さえている。うどんのあの表情は初めて目にする。確かに、酷い下水の臭いが充満している。ギンは通常運行だ。臭覚とかないのかも。
ダリアとバンズは——。あ、やっぱり臭いよね。
「二人とも、これ使って」
「「ありがとう」」
二人にタオルを渡し、自分もタオルで顔を覆う。ゴブ臭、少しはマシになった?
トンネルの左右を見渡す。暗くて遠くまで見えない……。
「これ、どっちが正解かな?」
「右の方向が上に登っている」
バンズがトンネルの壁を触りながら言う。
良く見えないが、確かに右は上りに感じる。下るより上がりたい。こちらの方向に行くのが正解だと信じたい。
「じゃあ、右に進もうか」
右方向のトンネルを進み始めて、小一時間が経った。時刻は18:40。今日、進めるのはここまでじゃない? 出口が分からないので、無闇に動かず体力温存した方が良い。
「今日はここま——」
シュッとユキの氷柱が顔の横を飛ぶ。え? 振り向くと、氷柱は真後ろのトンネルの壁に刺さっていた。
何事? 壁を見ると緑の……あ、これゴブリンじゃん。氷柱は、土から少し出ていたゴブリンの頭に直撃していた。
何、このゴブリン。土の中にいたん?
ゴブリンがいた隣の土壁を掘ると、眠っている別のゴブリンが出てきた。
「えぇぇぇ」
冬じゃないけど、冬眠中?
スパキラ剣で心臓を刺すが、ゴブリンは無反応だ。
まさかこのトンネルの壁全部にゴブリンがいるんじゃないよね? まさかね? 一匹いたら百匹ってGじゃん。Gならゴキちゃんズの方が可愛い……可愛いのか? いや、ゴブリンより可愛い。
このトンネルの部分……まさかとは思うが、繁殖エリア?
「最悪なんだけど!」
知りたくもなかった、ゴブリンの生態を実地調査とか勘弁して。
グサグサとスパキラ剣で壁を刺していく。
「ああ、もう! 壁、全部ゴブリンいんじゃん!」
完全に繁殖エリアだ。絶対そうだ。どこを刺してもゴブリンの血がスパキラ剣に付いてくる。
頭を掻きむしり考える。これが孵化?するまでは、無害なんだよね? さっさとここを出れば問題ないはず。
今日は、ここで休もうと思ったが、こんなゴブリンパラダイスの中で野宿とか、無理無理。
「ここで休もうと思ったけど、これじゃあね。二人の体力、大丈夫そう? まだ進めそう?」
二人とも大丈夫だと答える。確かに疲れた様子はないが、念の為に不思議水を飲んでもらう。
「傷が治っていく。これは、恵の森にある湖の水なの?」
「そうそう。行った事ある?」
「ないです。イカの魔物の縄張りになってからは、湖は立ち入り禁止です」
「あー。アイツね。うん。もう死んだから大丈夫」
「え?」
二人にイカが死んだ事を伝えたが、信用してない顔だ。
妖精なら、既にそういう噂は駆け巡ってない? あ、迷いの森の妖精は性格悪いんだった。じゃあ、知らないか。
グギャグギャと数匹のゴブリンの声が聞こえる。これは、近い。
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