エリーの家族
「ここがパン屋なの?」
「はい」
イメージしていたパン屋と違う。看板とかないし、側から見たらただの人の家だけど……パンを焼いている匂いはする。中を覗くと、確かにパンが並んでいる。イートインとかなく、持ち帰りのみの小さなパン屋だ。
「えっと、なんだっけ?」
「エリーです」
連日の横文字の名前で、キャパ超えしてる。エリーね。うん。覚えた。
「カイ。どうする? 自分で告げる? それとも私が告げる?」
「え? カエデが? 俺がいいます」
大丈夫か? 馬鹿正直にいいそうで不安。カイに確かめようと声をかけようとしたら、パン屋のドアが開く。
「あら。お客さん? 今日は早めに店じまいしようとしてたのだけど、入って入って」
「あ、はい」
ヘタレのカイの所為で、流されてパンを買う。普通に美味しそうだから、別にいいけど。双子も大きなフランスパンのような長いパンを買う。
ヘラヘラ笑いながらパンを買うカイの脛を蹴る。
「いって!」
「ん」
早くエリーの事を伝えろとアゴで指図する。時間稼ぎをしても言い難くなるだけ。
「冒険者エリーの家族の方ですか?」
「ええ。エリーは、私の二番目の子だけど……」
「冒険者のカイと言う。エリーについてお話があります」
パン屋の女性、エリーの母親に連れられ奥のテーブルに座る。
ユキたちには外で待ってもらう。
「あの。それで、エリーの事とは? 今回、また森に入るからって、いつもより長く連絡がなくて、今から冒険者ギルドに行く予定で…あのそれで…あの、エリーの話…」
エリーの母親は、急にたくさん言葉を発する。きっと、カイの表情でよからぬ知らせだと気づいたのだと思う。一人で聞いて大丈夫?
エリーについて告げようとするカイを遮る。急かしたのに、ごめんね、カイ。
「エリーさんのお母様。他にご家族はいらっしゃいますか?」
「え? はい。トーマス、エリーの兄が帰ってくる時間です」
エリーの兄はパン屋を継ぎ、市場でパンを売っているそうだ。表のドアの鈴がなりエリーの兄が帰ってくる。
エリーの母親が兄のトーマスに抱擁をして、エリーの話で冒険者が来ていると伝える。
「エリーは、死んだのか?」
「トーマス!!」
エリーの母親が声を上げる。
トーマスは、拳を握りながら同じ質問をしてくる。カイに視線を移す。君の番だよ。
「はい……エリーは、依頼中に賊に…賊と戦闘になり、命を落としました」
「……そうか」
エリーの母親の身体から力が抜け、倒れそうになったのをトーマスが支える。
遺髪を渡すと、エリーの母親は顔を歪めて泣き始めた。
これ以上話にはならなかったので、明日詳細を聞きたいとトーマスにお願いされ、パン屋を出た。
あと二件か。パーティリーダー、ジェイクの恋人ともう一人は……飲み仲間? 流れ者で家族はいないらしい。
双子が後ろからトボトボと付いてくる。
「二人とも、辛いなら宿に帰ってもいいよ」
「ううん。大丈夫」
「僕も、大丈夫。ただ、お母さんのこと思い出しただけ」
「私も」
カイもしょんぼりとしている。考えたら、体格は大きいが、彼もまだ十四歳だ。
「カイ。さっきのは、良く伝えることができていたと思う」
「そうか。それなら良かった」
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