減点ペナルティ
冒険者ギルド長の執務室を出て、宿に戻る前に依頼のボードを確認する。
ボードは、既に大分食い荒らされた後で、依頼書がまばらに貼られている。数人の冒険者がボードの前に座っているが、昼から酔っ払ってるのか…男性四人組が大きな声で笑っている。ボードの真ん前で邪魔なんだけど。ユキたちを宿に置いてきたのでモーゼパワーもない。
酔っ払いを無視してボードを確認する。少ないけど、結構良い感じのがある。
鉄級 ニワソウジ 銅貨一枚【ポイント1】
銅級 養オーク場ソウジ 銅貨二枚【ポイント5】
銅級 ゴブリントウバツ 一匹半銅貨【一匹ポイント3】
養オーク場? 養豚場みたいな所?
古くなって横にまとめられている依頼書も確認する。
鉄級 ドブサライ 銅貨二枚 【ポイント7】
鉄級 モントイレソウジ 銅貨一枚【ポイント5】
銅級 クサイソウ採取 銅貨五枚【ポイント10】
古くなって黄色くなった依頼書もあり、ポイントが何度も加算修正されている。真剣に誰もやりたくないんだろうね。そりゃドブとかトイレとかクサイソウって…全部臭い関係。
銀級の依頼もひとつあった。
銀級 スライムトウバツ 銀貨一枚【ポイント20】
爆発テロのスライムか…あれで銀貨一枚とか…誰も行かないって…
ボードを見ていたら、誰かに足を蹴られる。あ? 普通に痛いんだけど。
「おい! 新人。てめぇ俺の足蹴っただろ?」
「蹴ってないです。私が蹴られました」
大きな声で騒いでた四人か。なに? 酔っ払いの絡み? めんどくさい。周りも酔っ払いと関わりたくないようで、こちらを見て見ぬふりをしている。
「ヒクっ。いんや。蹴ったぞ」
酔っ払いどもがケラケラと笑う。
無視して宿に帰ろうとしたら、通り道を酔っ払いの一人に防がれる。
「通してください」
「おい! 新人! 俺の足蹴った事、詫びろよ」
「…詫び?」
「そうだ。俺に土下座しろ!」
はあ? 土下座? なんでそんなワード…キヨシか。醤油とかでキヨシへの好感度上がってたのに、異世界に土下座文化いらいないって。カエデちゃんそう言うの、はんたーい。
「嫌です」
「俺に土下座するまで、ここは通さねえぞ~。どうする、新人ちゃん。土下座以外のことでもいいんだぜ~」
酒くさっ。穏便に済ませたいのに、腰を動かしながら下品な仕草をする男に苛立つ。男と一緒にいた奴らもニヤニヤしてる。土下座ね。いいよ、やってやる。
「貴方に土下座すればいいんですね?」
「おう…やんのか? 見ものだな。ケケケ」
「私は、今から貴方に土下座します。後で難癖付けるのはなしだから、いい?」
「分かったから、早くやれっての」
よし。言質は取ったので、素早く走り出し、男の膝裏関節を蹴る。後ろから床に倒れ転がった男の背中に乗り正座をする。男は何が起こったのかわからずアガガと言っている。他の三人も咄嗟のことで身体が動かない。
男が待ちに待った、土下座の時間。
ピンと背中を張り手を付き頭を下げる。
ゴンっゴンっゴンっ
「も う し わ け ご ざ い ま せ ん」
男の頭の後ろを頭突きながら、数回頭を下げる。
「おい! 何を騒いでやがる!」
ガークか。私の土下座を見たガークは、呆れ顔で何をしているんだと聞かれる。
立ち上がりガークに状況を説明する。
「土下座です。この人が、俺に土下座しろって。希望を叶えてあげただけです」
「絶対ちげぇだろ。それよりいつまでそいつに乗ってやがる! 降りろ!」
全員個室に連行される。床に転がっている男は、酔いも回って気を失っている。個室で事情を聞かれると奴らは、私がいきなり絡んできたなんて言いやがった。
証言の食い違う私たちにガークが一喝する。
「静かにしろ! お前たちの証言じゃ埒が明かない」
ガークは、周りにいた他の人から事情を聞いて判決を下す。
「その気を失っているガウルは、ペナルティ二点。ゴウ、ベンノ、ジョン、カエデは、一点の減点だ」
「なんで俺たちまで!?」
「止めないからだろ。二点にされたいのか? 大体お前たちは、なんでギルド内で酔っ払っている? 酒は程々にしろ!」
男たちは、ペナルティを受け入れ、渋々部屋を出る。一緒に部屋から去ろうとしたが、ガークが腕を組みながらドアの前に立ち、ドアを阻む。
「カエデもペナルティに文句あるのか?」
「妥当だと思います」
「そうか…しかし、いい蹴りだったな」
「結構、初めから見てたんじゃん」
蹴りからだ、その後は人だかりで見えなかったとガークは言ったが、どうだろう? ペナルティは正直あれで一点なら安い方でしょ。
また絡まれるの嫌だし、次回からはいつでもユキたちに同行してもらおう。
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