まともな食事

 奥にいる宿の受付の女性に呼ばれる。遠くからでも分かる筋肉質な女性が、こちらを手招きをしている。宿は、体臭と酒の臭いでむせ返っている。ユキの視線が痛い。

 受付の女性は、多分三十代から五十代。年齢不詳だ。この世界での年齢当ては、とことん外れている。


「こんばんは」

「聞いてるよ。三人と従魔が二匹だね」


 受付の声は酒焼けか?枯れてハスキー。

 五人部屋が空いていると言う事で、その部屋を借りることにする。値段は一人銅貨三枚。従魔割増料金が一匹に付き銅貨一枚。これが、幾らかは分からないが、錆銅貨なら沢山ある。双子もお金を持っていたので、自分達で宿代は出させる。


「明日、冒険者登録出来るならしな。冒険者は、一晩銅貨一枚だよ。お湯が欲しいなら三人で半銅貨だよ。部屋は二階の奥の右側だから」


 冒険者の宿代、凄いお得じゃん。部屋番号の付いた鍵を渡される。

 部屋に向かう前に、お湯を頼む。銅貨を払うと、半分に割れた銅貨が戻ってきた。これが半銅貨? お湯は、下働きが部屋に持っていくと言われた。

 この宿は、三階建ての木造。古いのか歩く度に床が軋む。

 部屋に到着。中は、意外に広く、ベッドが五つあるだけのシンプルな部屋。洗面器はあるが、風呂もトイレもない。


「はぁー」


 ベッドにダイブしてゴロゴロする。あー。疲れた。主に精神的に。双子も即座にベッドに横になる。


 ぐーきゅるるるる


 お腹の虫が吠えている。そういえば、昼のおやき以降…まともな食事にありつけていない。

 ドアがノックされ、大きなバケツ一杯のお湯を渡される。重っ。運びたくない。ドアの内側に置かれたバケツ。もうここでいいや。


「ここにお湯を置いておくから、セルフでよろしく。あ、これタオルね」

「柔らかい…」


 ギンから出した、ログハウスのタオルを渡す。

 双子が、ベッドの横にある洗面器にお湯を入れ、旅の疲れを取る。私も顔や体を拭く。


「あ゛ー」


 タオルに顔を埋め。叫ぶ。今なら分かる…世のおじ様方の気持ち。

 

 垢落としが終わったら、ますますお腹が空く。一階の食堂に行くか。ユキとうどんひとつのベッドを占領して動こうとはしないので、魔石を上げて部屋に置いていく。ギンは…ギンは、肩に乗ってレッツゴーしてるので一緒に連れて行く。

 双子と食堂兼バーに到着。ユキ達がいない分、視線は少ない。それでもジロジロとは見られてるけど。

 席に座り、従業員を待つが誰も来ない。カエデちゃんハングリーなんだけど。


「おい。あんた。注文はカウンターでするんだぞ。メニューはあそこだ。頑張れよ、新人」


 ありがとう! 酔っ払いのお兄さん!

 メニューを見る。双子は、ミルクシチュー。私はトクセイニクのシチューにした。

 席に着くと、すぐに料理が運ばれてくる。メインの料理に付け合わせのパン、それから頼んでいないジョッキの酒が三つ目の前に置かれる。


「お酒は頼んでないよ」

「酒は料理についてんだよ。三つで銅貨一半だ」

「この二人は子供なんで、ジュースか水も頼んでいい?」

「ジュース? んなもんねぇ。水かムギチャだ」


 麦茶…双子が麦茶を注文する。食べ物の代金は私の奢りだ。酒は三つも要らないと言ったが、『出したんだから飲め』と置いていかれた。

 麦茶も来たので三人で乾杯する。ゴクリと酒を飲む。温っ。これ、ビールなの? 味は悪くない。爽やかな風味なのにまろやかでコクがある。冷たければ最高なのに…でも久しぶりのビールだ! 温くてもいい!


「なんだ。新人、初めて酒を飲んだのか? そいつはグルートビールだぜ。うめぇだろ」


 さっきのお兄さんがまた絡んできたので、注文の仕方を教えてくれたお礼に余っているビールをあげる。『分かってんじゃねーか』とフラフラどこかに行った。

 

「さっ、食べよう」

「「うん」」


 特製肉のシチューは、なかなかのボリューム。でも、なんの肉か分からない。これはホルモンと牛すじ? シチューを口に運ぶ。ん! 美味しい。ガツガツとシチューを食べる。パンは硬いけどシチューに付ければ問題ない。双子も黙々と食べている。


「美味しい?」

「「うん!」」


 お腹一杯になった所で、部屋に戻る。流石にジョッキ二杯のビールに大ボリュームのシチューを完食は腹にくる。

 食堂の出口には、さっき絡んできたお兄さんが転がってる。お兄さんを跨いで部屋に戻る。


「寝ます。おやすみ」

 

 

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