野営
「…カイ…大丈夫?」
「ヒィ。あ、はい」
「…もしかして、魔物と戦ったことない?」
「…ホーンラビットなら…」
カイは、ここまで森の奥地に来た事はなく、ゴブリンライダーは冒険者に聞いて知っていたが、今日初めて遭遇したらしい。逃げたパーティとは、ターキーの肉を狩る依頼だったそうで、奥地まで来る予定はなかったという事だった。冒険者の荷物持ち自体、始めたのは数ヶ月前。
カイ、命は大事にしよう。私なんてビビって一年近くログハウスの警備をしていたんだよ。
「カイ…」
「すみません」
「ううん。責めてないよ。ただ、帰り道は分かるの?」
「それは、大丈夫」
カイが腕輪に付いた黒い石を垂らすと、ピンと石が南西の方向に引っ張られる。街を指しているらしい。ええ。なにそれ!? コンパスのような物?
ユキたちのお食事も終了したので、野営地を探す為に歩き出す。
「うどん! 狼の頭はぺっしなさい」
「ヴュー」
途中、道なき道を通るのに邪魔な枝をスパキラ剣で切り落とす。
「その剣、錆びているのに切れ味がとてもいいですね」
「え? 錆び? スパキラ剣が? こんなにキラキラしてるのに?」
「………スパキラ剣っていうのか……」
スパキラ剣のどこが錆びてんの? と思ったが、どうやらカイからは、刃が赤錆を帯びているように見えているようだ。あぁ…だからあのゴブリンライダー、スパキラ剣を馬鹿にした感じだったの? 他から見たら、錆びた剣にしか見えないのか…
……盗まれずに済みそうだから、まぁいいっか。
安全な場所が見つかったので、テントを張る。
カイのテント…いやこれはテントじゃない。雨露を凌ぐ布だ。
カイがお香のような物を焚く。
「それは何?」
「魔物避けだけど、カエデ…さんは使わない?」
「カエデでいいよ。魔物避けは初めて見たよ。これだけで来なくなるの?」
「魔物の嫌いな臭いを焚いていると、大抵は寄り付かないです」
「そっか。カイ。疲れたでしょう? 先に寝ていいから。起きてきたら夕食にしよう」
「じゃあ…先に寝ます」
カイは倒れ込むように寝た。疲れてたよね。
うどんにボール投げをせがまれる。持ってきたのは、ずっと口にしていた狼の頭。
狼の頭を十数回投げたら満足したのか、うどんも寝た。
「ギンもありがとうね。茶色の玉ここに置いておくね」
「玉だえ~」
ギンが玉によじ登り根を張る。まだ、一つ目の玉だが十日使って一回りほど小さくなったかな? 玉は十個あるので、しばらくは大丈夫だね。
スライムテロゾーンでは、テントが張れなかった。久しぶりにちゃんと寝れる。
トリップワイヤーアラームを仕掛け、夕食の準備をする。ターキー肉はまだ十分あるので、暖かいスープにする。
外は、四月に入っているがまだ夜は肌寒い。
辺りが暗くなり始めた頃、カイが起きてきた。
「寝れた?」
「はい。疲れも取れました」
「スープあるから、食べてね」
「美味いです」
疲れが取れたのか、話し方が前よりちゃんとしてる。
カイが一人で夜番するのは、不安。ユキが居るから大丈夫だろ思うけど…
ゴロンと寝転がる。ああ。久しぶりだ。清潔なテントの匂いに、プーンと自分の髪が臭っている。
うっ。流石に十日以上髪を洗っていない所でゴブリンの血のシャワーだったからね。最悪だ。気になって寝れない。
ジジジー
「魔物ですか!?」
「ううん。ちょっと髪を洗ってから寝ようかと」
「そ、そうですか」
髪と頭を洗いスッキリする。クンクン。うん、臭いは取れた。
カイが集めた枝を火に入れている。
【ファイア】
カイが指先から火を出して、枝を燃やす。
「え!? カイは魔法が使えるの?」
「え? 生活魔法は誰でも使えますよ」
「えええ。そうなんだ」
ベニによると、カエデマジックパワーはゼロなんだよね。異世界にいるのに酷い話だ。
「他はなんの魔法が使えるの?」
「…生活魔法なら【ファイア】の他【ウォーター】に【ライト】です」
カイの指先から水がチョロチョロ出たり、小さな光が出たりして面白い。決して悔しくない。魔石でも同じ事できるし…光の魔石は熱いけど…
「凄いね。カイ」
「生活魔法で褒めて貰えるなんて、なんだか照れます。一応、風魔法の適性もあるんですけど…攻撃が当たらなくて…それで冒険者の試験にも落ちて…」
ズーンとカイが落ち込む。うっ。話題を変えよう。
そこから当たり障りのない会話を暫くして寝た。夜中に起き、ユキとカイと交代する。うどんはずっとヘソ天で寝てる…ユキ…子育て大丈夫かな…
▲▲▲▲▲▲
「おはよう」
「おはようございます」
朝の四時、カイが起きてくる。ターキーを食べて出発だ。
三時間ほど歩いて、小休憩でまた肉を頬張る。ターキーは素晴らしい鳥だ。また捕まえたいな。
再び歩きだして、小一時間。雨の日の鉄棒の臭いが漂う。これは血の臭いだ。魔物か動物が死んでる?
臭いがする方を避けようとしたが、ユキとうどんが真っ直ぐそちらに走る。
仕方ないので、そちらの方角に向かう。臭いが強くなってくる。近いね…ユキたちと合流するとそこには、人の死体が転がっていた。
「…ジェイクたちだ…」
どうやらカイを置いて逃げたした、あのパーティのようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます