視線の先

 おはようございます。

 今日は、朝から不思議水の湖に来ている。イカの姿は見えないので、さっさと魔石に水を吸収させる。ユキとうどんは、相変わらず、森からこちらには来ない。

 魔石も満タンになったし、帰ろう。


「ギャンギャン」


 ユキが焦ったように大きく吠える。ダッシュで森へと向かい走る。

 ドカンと大きな地響きが聞こえ、振り返ると、先ほどまでいた場所に大きなイカの足がある。カエデのミンチになる所だったじゃん! イカの足から、小さな触手がニョキニョキと生え、凄いスピードで追いつかれる。避けようとしたが、足を握られ地面に転び、胸を打ち付ける。おえぇ。

 痛さにかまっている場合ではない!

 触手を外そうとするが、外れない。アイスピックで触手を刺すが、次から次へと新たな触手が出てきて掴まれる。何この馬鹿みたいな力。グイグイと湖の方に引っ張られる。ヤバイヤバイ。


「ヴゥー」


 ユキから氷柱が放たれ、触手に刺さり千切れる。よし! 足が自由になった! 急いで、森に走る。後ろに迫った触手は、森に入った途端に追跡を止める。


「はぁはぁ」


 息切れで、脇腹が痛い。イカが襲ってきたのは初めてなんだけど…なんで急に?


「キャンキャン」


 うどんが足元に向かって吠える。げっ! 触手が足に巻きついたままだ。ニュルニュルと絡み付いた触手を足から剥ぎ取る。

 触手は暫くウネウネと動いていたが、やがて力をなくし萎れた。

 木の影から、湖にいるイカの動きを探る。


「キュキュキュ」


 これがイカの鳴き声? 姿には合わない可愛い鳴き声で、緊張感が薄れる。鳴き方が、うどんとほぼ同じじゃん。

 くっ。可愛い鳴き声に戦意も削がれる。だが…姿は相変わらず、大きなイカだ。攻撃され、触手の一部を失ったからか? 水を思いっきり叩きながら暴れている。気性が激しいイカちゃんだ。あれだけの大きなイカを倒すことは厳しいかもしれないけど…来るたびに襲われてもなぁ…あのイカ食べれるのかな…

 手に持った触手を見る。


 ……


 焚き火の時間ですよー。

 ほど良いサイズに切った触手を棒に刺して、焚き火で焼く。味付けはないので素焼きだけどね。ずっと獣肉しか食べていなかったから、このイカを焼いている匂いだけで、口の中は唾いっぱいだ。

 ユキちゃんの目線は痛いが、出来たイカ焼きに齧り付く。はぁん…ジューシー。ユキ姐さん! 普通の旨いイカ焼きですよ。ユキの前にも焼きイカを置くが、無視される。うどんはカミカミして遊んでいるけどね。魚介類は食べないのかな?


 棒に刺した焼きイカを食べながら、再度イカを確認する。少し落ち着いたようだが…周りを警戒しているのかな? 水から顔を時々出して辺りを見渡している。

 

 モグモグモグ


 触手を切り取ったイカを見ながら、その触手を食う。なかなか出来ない経験だ。今度レジュメの特技に追加しておこうかな。その他の特技は、猪の中にダイブやオークの死体の上で昼寝…



 くっ。ただのサイコパスだ。即不採用の地雷ですよ。


 

 

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