第7話 ただの赤です

「バブバブ」


 ただいま~~そしておじゃまします~。見張りの兵士はいないということはすでに調べていますのである程度声を出しても大丈夫。改めてこの屋敷は広いな~。まさか一年で屋敷から出るとは思わなかったけど。


「ぶ~?」


 あれ~この屋敷は全部知っているはずなのに地下室が一つ増えているぞ~。


 僕は神眼で屋敷を見渡した。新しく出来ているエリアに3人の反応を確認している。双子とそれに全身鎧の人だ。


 地下まで降りてみたけど・・・・。


 つい先日お父様が捕まっていたこの部屋は綺麗になっていて赤い絨毯が全体にひいてあった。僕が開けた穴も補修されていて日の光は入って来ない。僕は絨毯の下に潜り次の部屋への扉に近づく。


「それであの赤ん坊は何なんだ?」


 中から声が聞こえる。どうやら僕についての情報交換をしているようだ。僕ってこの歳で有名人?。サインの書き方わからないよん。


「あの赤子はツヴァイの息子だ。それも加護なしのな」

「それは知っている。それ以上の情報はないのか?」


 双子の弟フーズが苛立ち全身鎧に詰め寄る。確かに全部表立っている情報でなんの得もない。


「・・・少し不確かな情報なのだが冒険者ギルドにあの赤子が避難してきてから多くの熊とイノシシの素材が換金されるようになってな」

「「・・・」」


 双子は全身鎧の人の話を静かに聞き始めた。僕も聞き耳を立てて聞いている。


「!?、そこに居るのは誰だ!!」


 ズガン!!


 僕の頭上を大剣が通る。折ろうと思えば折れたんだからね、嘘じゃないよ~だ。ちょっと負け惜しみいってみました。内心僕は心臓バックバクだよ、だって神眼で天井から見ているような絵で覗いていたからね。そこへあの音だものびっくりしちゃうよ、ビビりじゃないやい!。


 [暗殺家業]の効果があるので通常よりも見つかりにくいにも関わらずジーニに気付いたこの全身鎧の男?は相当な使い手なのかもしれない。


「・・・誰もいないじゃないか」

「ここまで誰かがこれるはずないだろ」


 そうそう誰もいませんよ~。剣により壁に隙間ができたので僕は覗きし放題だぜい、神眼があるから穴は要らなかったんだけどね。僕が赤子じゃなくて5歳児くらいだったら剣が当たっていただろうね。だがその時はお前の命は私のお腹によって・・・ニヤッ。では覗き再開だ。


「・・・だが確かに...まあいい。ギルドに流れてきた素材は元アステリアの者達が持ってきていたんだ。そこからお前達が痛手を負ったという情報を合わせると」

「あの赤子がアステリアの者達の為に狩っていたという事になるのか?」


 全身鎧の人が頷く。双子は共に見合い冷や汗をかく。そして兄のルーズは質問をする。


「それで熊の素材とイノシシの素材のランクは?」

「・・・C~Bだ」

「C~Bだと・・・それは本当にあの赤子がやったと言うのか?」

「不確かだと言っているだろう。少なくともお前達がやられたのは真実なのだろ?」


 全身鎧の質問に双子は嫌そうな顔をして小さく頷いだ。そうそうあの人達中途半端に強かったから腕取れちゃったんだよね。仲良くしてくれれば治してあげるんだけどな~。


「それでデシウス、お前はどうするつもりだ?」

「どうとは?」


 双子から殺気のようなものがこぼれだした。それは地下全体を覆い空気が重くなる、双子は元々この全身鎧の出方次第では始末しようと思っていたのだろう、この部屋は逃げにくい作りになっているし。殺気は僕も感じたけどそれほどの恐怖は感じなかった。伊達に世界一ではないという事かな?。


「ロクーデの出方次第だな。奴はまだあのメリアという女を諦めていない、何故あそこまでお熱なのか。私にはわからんがな」

「そうか、あのデブがお前の主人だったな。しかし俺達はお前達を支える気はないからな」

「あのデブと組んでからろくなことが無いしな。それにあいつの家はなくなったのだろう?」

「魔族のお前達にはわからんつながりがあるのだよ。人にはな」


 全身鎧はロクーデの雇われなのか?。僕は赤子だからわかんないけどお家が無くなっても支持する人がいるのかな・・・。ロクーデって仲間うちでもむちゃくちゃ言われてるんだな、まあしょうがないか。


「ふん!分かりたくもないね。俺達魔族は強さが一番だからな」

「分かりやすくていい種族さ」


 力にも色々あるがようは相手に勝つのが強さと考えているようだ。なので彼らルーズとフーズも尊敬の対象だった。


「そのおかげで俺達は首都バーンに帰れないがな」


 ルーズはなくなった片手を見て嘆く同じようにフーズも無い手を見て俯く。あれ?泣いてるのかな?そんなにショックだったのか~悪い事しちゃったかな~。


「!?、やはり誰かいるな...」


 全身鎧のデシウスが動いた。扉を開けて僕の覗いていた辺りを探り始めた。僕は絨毯の下を動く、幸いにも光源が無いのであまり目立たない。


「暗くて何も見えん」

「本当にいるのか?」

「ああ、確かに私の[感知]スキルに反応があったのだが。こう暗くてはよく見えないな。明るくするぞ[ライト]」


 明るくなったことで部屋が容易に見渡せるようになった。僕は絨毯の下にいるわけだ、なのでそこだけこんもり盛り上がってるのが見えている。僕は神眼で天井からの視線になっているので丸見えなのが見える。ちょっとドキドキ。


「・・・・あれか?」

「あれだな」

「小さいな・・・まさか」


 双子とデシウスが顔を見合ってから僕という可能性に気付きすぐに絨毯を引きはがした。


「バブ~」

「「な~~~!!」」


 双子は言葉にならない声を上げる。デシウスはその声を聞き驚き呆気に取られる。双子は確かにジーニがいると予想はしていたのだがいざその姿を見た時体が強張るのを抑えられずに声をもらしてしまう。


 僕はいや~んというポーズを取りすぐに地下から出ようとするが流石に逃がしてはくれないようで地下からの出口を双子に塞がれた。


「逃がすわけがないだろ!!デシウスやれ!」

「お前なら倒せるだろ」

「これがお前達の腕をもぎ取ったという赤子か・・・本当だったんだな」


 デシウスは双子の尋常ではない汗に確信を抱いた。双子の足はがくがくと震え恐怖が顔を作りだしていた。僕はこんなに可愛い顔なのに何で怯えるのさ、失礼しちゃうね。


「お手並みを拝見しようか」


 身の丈ほどある大剣を構えたデシウスは小手調べというように僕に大剣を振り下ろした。もちろん僕は軽く避けたんだけどそれだけでデシウスの本気を引き出すほどの手ごたえを与えてしまったようでデシウスから殺気が放たれた。


「バブバブ」


 僕はただの可愛い赤ちゃんだよとアピールしたんだけどデシウスは鼻で笑い剣を振り下ろした。本当に失礼な奴だな~よ~し。


「[パワーブレイド]!」

「バブ!!」

「何!!」


 デシウスが何やら技名を叫ぶ。すると剣の振り下ろしの速度が格段に上がった。高速で振り下ろされた剣を僕は真剣白刃取りをして受け止める。本当はおでこに当たっているので頭がバイ~ンってなったけど見られてなければ成功でいいよね。そこスローモーションで見ないでください、恥ずかしいので・・・ね?。


「ちょっとまて!今当たっていただろう」


 ありゃ?見られてた?、恥ずかしい~ちょっとデシウスさん黙っててくださいよ~も~。ちょっとおでこが赤くなっていてヒリヒリと痛むけどちょっと我慢。確かにこんな至近距離で見間違うわけないよね。


「う~~バブ!」

「な~~!!」


 白刃取りをした大剣を僕が折るとデシウスが言葉にならない声で嘆いたそしてその場に座り込んでしまう。


「おい、大丈夫か?」

「ちぃ、役立たずめ、フーズ!兵士達を呼びに行くぞ」

「ああ!」


 双子が地下から出ていき逃げていった。残された僕は逃げようと思ったんだけど・・・。


「私の剣が・・・・お父様の剣が・・・」


 デシウス君?が俯いて嘆いている。盗み聞きしていた時はいかつい話し方だったのに剣を折ってからはなよなよしい話し方に変わってしまった。僕は流石に心配で近くに寄り添ってあげた。


「敵の私を慰めるのか・・・。お前は何なんだ?」

「バブ?」


 何なんだって言われても・・・可愛い赤ん坊さってまだ話せないんだよね、口惜しいな~。早く話せるようになりたい。大体2歳くらいで話せるはずだ、乞うご期待ください。


「ブア~!」

「な!この光は[キュア]か!この魔力の高さは何なんだ」


 精神を安定させるためにデシウスに状態異常を回復させる[キュア]を唱える。


「ビベア~!!」

「今度は何だ!。私の剣が輝いて・・・・元に戻ったのか・・・」


 流石に形見を壊しちゃうのは何か違う感じがしちゃったから直してあげたよ。[リペア]っていう魔法なんだけど本当は摩耗した武器や防具を回復させるだけの魔法なんだけど僕が使うと欠損も直っちゃうみたいなんだよね。お父様のツインディアもやってあげたら欠けていた刃が直ったんだ。凄いでしょ。


「お前、いやあなたはまさか天使様ですか・・・」


 デシウスが兜を脱ぎ顔を出してそう尋ねる。僕はその素顔を見て驚いた。


 エルフですわよ奥様!それも美女!。ザ!ファンタジーですよ~~。


 僕は歓喜して両手を上げる。デシウスはポカーンとしているが僕は構わずに喜びの舞いをする思わず僕は初めての立っちをしてしまった。なんだかお母様たちに悪い気がしたけど親の知らないところで子供って育つんだよね。致し方なし・・。


 よし、あとはケモ耳達と会うだけだな。ニセ猫耳はララさんに見せてもらったけどやっぱりモフモフしたいじゃん。


「ちょ!えっと確か、ジーニ様!どこに行かれるのですか」

「ダウ?」


 僕は喜びのあまりデシウスを忘れて帰りそうになってしまった。ザ、ファンタジーが目をうるうるさせている。デシウスは仲間になりたいようだ、ってログがながれそうだけどすまない!僕にはシリカさんがいるんです!。振り帰った首を出口に向けてハイハイで階段を登ろうとすると後ろ脚をつかまれ止められた。


「ジーニ様!!」

「エウ?」


 デシウスはぬいぐるみを抱きしめるように僕を抱きあげた。背中のお胸が僕の頬を緩ませるけど僕は行かなければならないのです。なので致し方ない。くらえ!プニプニおな~か!。


「あぶ、なにゅお・・・・・ぐ、うっ」


 流石強そうな恰好をしているだけあって気絶するのに時間がかかった。僕のお腹もまだまだだね。


 僕はアステリアを離れ一度アルサレムに帰っていった。


 そういえば兵士を呼びに行った双子はどこへ?。あ~トイレか~ちびっちゃったんだね、そりゃしょうがない。人生そういう時もあるさ。まだうまく喋れないのでチクらないから大丈夫・・・ニヤッ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る