第8話 相談

「ちょ、ちょっと待ってくれよメリア」


 王都のツヴァイの屋敷では結婚してから初めての夫婦喧嘩が繰り広げられている。屋敷の中を火の玉が右往左往していてはっきりいって喧嘩の域を越している。


「あなた・・・・ジーニをアステリアに行かせたんですって?」

「わ、訳を聞いてくれメリア」

「訳なんて関係ありません!ジーニを行かせたのでしょう!!」


 メリアの目は何処か理性をなくしツヴァイを追い詰める。やばいと思ったツヴァイは逃げだした。


「ちょっと!!何で逃げるのよ!!」

「君がちゃんと話を聞いてくれないからだよ!!」

「この!待て![ファイアボール]」


 メリアは魔法を放つ。先ほどからメリアの後方に浮いていた火の玉がツヴァイに放たれる。メリアはこの程度の魔法ではツヴァイが傷つかない事を知っていて放っているのだろう。


「あつ!!」


 傷つかないと思っていたわけではなかったようだ。メリアは理性を失っていただけで歯止めが利かなくなっている。メリアはジーニの事となると親バカになってしまうのだろう。昔は加護なしのショックで離れていた分、今は最高に親バカを発揮して過保護になってしまった。


「ハァハァ・・・・シリカ、匿ってくれ」


 ツヴァイはキッチンに逃げ込んだ。そこにはシリカが料理を作っていたのだがツヴァイの声は届いていないようにシリカは手を動かし料理を作っていく。


「あの、シリカさん?」


 シリカの不穏な雰囲気にツヴァイは再度シリカに敬語で声をかけた。シリカは包丁の腹をツヴァイの頬に当てて一言。


「死んでください...」


 ツヴァイはその言葉で顔面蒼白。ツヴァイが蒼白のまま数秒立ち尽くすとキッチンの扉が蹴破られる。


「あ~な~た~」

「ふあああぁぁぁ~」


 ツヴァイは恐怖で鳥肌が立った。せっかくジーニに助けられたのに何でこんなことにと思うがもう遅かった。ツヴァイは声を上げ窓から出る。すると網の罠に包まれ木につるされた。


「ん、ツヴァイ様は野宿」


 ララにより仕掛けられた罠によりツヴァイはぐるぐる巻きに更に網にかけられている。どんな罠だ!と思うほどの見事なすまきである。


「うう、女性を敵にしてはいけないとあれほど」


 執事のセバスがツヴァイの姿を見て嘆く。メリアの魔法などの後始末をしながら並走していた執事のセバス、彼もただものではなかった。そしてその夜はツヴァイのくしゃみがアルサレムに響くのだった。


「う~ジーニ、早く帰ってきてくれ」


 ツヴァイが嘆くがジーニはまだ帰ってこない。だってその日に行ったばかりなのだから。


「あの子もあの子よ」

「ですね。帰ってきたらお仕置きを」

「ん、面白いお仕置き思いついた」


 女性陣は寝る前にジーニに対するお仕置きを考えるのだった。セバスはハンカチで目頭を押さえジーニを思い一句。月夜に浮かぶ、我が主人、儚くも強靭な女性を思ふ・・・byセバス。


「アウ?」


 僕は寒気を感じて空で声をもらした。まさかと後方を見たが何も無く僕はアルサレムに飛んでいく。


 途中アルス王子の軍だと思われる列を確認したがまだ一個目の村にすらついていなかったのであと三日程はアルサレムで過ごすことにしようと決めた。








「ジーニ!!助けてくれ」

「ダウ?」


 少しアルス王子の軍を見ていたので時間がかかったけど夜遅くに屋敷に帰るとお父様がすまきにされ木に吊るされているのが見えた。まさか敵が?、と思い僕はお父様を降ろす。


「すまないジーニ」

「ダーダー?」

「ああ、これはメリア達がな・・・」

「ん、ジーニ様もお仕置き」

「アイイ~?」


 僕の足に縄が掛けられ片足吊りの宙吊りになった。流石のララさん、僕の強さを知っているので捕獲という手段を講じてきた。でも何でララさんにこんなことされないといけないんでしょう?。


「ジ~ニ」

「バブ?」


 僕は逆さづりの状態でお母様が姿を現した。お母様はシルクの寝間着でとても美しいと思ったんだけど顔は鬼のようになっている~。


「プギャ...」

「ジーニ様」

「アウ~」


 お母様の顔を見て僕は泣きそうになったがシリカさんの声で体を動かし声の方を見る。すると、


「えい!」

「アウウウウ」


 シリカさんの胸に挟まれ僕は気絶した。だいたいの男はこの技で屠られるであろう。これはステータスなど関係ない男であるだけで意識をもっていかれるのだ。君達も気をつけてくれ。


 ガクッ。


 ジーニは鼻血を出して気絶するそしてツヴァイと一緒に仲良く宙づりにされるのだった。流石にジーニは毛布でグルグル巻きである。


「また俺もグルグル巻き・・・・もう許して・・・」


 ツヴァイの呟きは虚空へ消える。






 僕が鼻血を出して宙づりにされている頃、デシウスは。


「はっ、ここは・・・・剣は無事というか前よりも状態がいい?」


 ジーニのお腹で気絶したデシウスは今までの事を思い返すそして兜をかぶりアステリアから出てアルサレムへと急ぐのであった。双子の事は完全に忘れている。


「あの方は必ずアルサレムへ帰るはず。すぐに向かわなくちゃ!」


 デシウスは急いだ。だが重苦しい全身鎧がエルフの身軽さを奪う。急いでいるのに鎧を脱がないのは何故か。それは呪いがかけられていたからである。デシウスの父の形見の大剣それと対になっていたこの鎧は父の呪いがかかっていたのだ。


「忌々しい鎧だ。だが父の形見壊すわけにも・・・・ん??」


 デシウスは鎧からいつもの呪いの気配を感じないことに疑問をいだき足を止めて、[鑑定]のスキルを使い鎧を調べた。すると、


 [デバイアの鎧]、歴戦の戦士デバイアの鎧、彼の作りしこの鎧は血族でしか本領を発揮しない。


「はあ!?」


 デシウスは困惑した。デシウスの父デバイアは歴戦の戦士で確かにこの鎧は血族でしか本当の力を出さない・・・ここまでは合っているのだが。


「何故呪いが消えているんだ!」


 そうなのだ。何故かデバイアの鎧から呪いがなくなったのだ。実はこれもジーニのおかげだった。


「まさか!ジーニ様の[キュア]で?」


 ジーニは彼女、デシウスが剣が折れた事で傷ついた心を癒す為にキュアをかけたのだ。ジーニの魔法はすでに規格外の性能になっているので通常は呪いを解くのには[ピュア]の魔法のはずなのだがジーニは[キュア]の魔法をかけていたのだった。


 この二つの魔法は似ているものの若干のエフェクトの違いがあるのでデシウスは気付いていたのだった。


「やはり!!、ジーニ様は天使・・いや神そのものなのでは」


 デシウスは全身鎧を脱ぎレザーアーマーの軽装になると全身鎧をアイテムバックにしまい込んだ。デシウスはレアアイテムであるアイテムバックを持っていた。このアイテムバックは10~50までの荷物を大きさの制限なくしまえるとても便利なアイテムである。だが貴重なアイテムの為王族級の者達しか持っていないのが現状である。という事はデシウスもその範囲に入るほどの高位の者なのかもしれない。


「軽くなった!。待っていてください!我が神よ!」


 デシウスは盛大に誤解したままアルサレムを目指すのだった。







「まいど~またどうぞ~」


 冒険者ギルドでそんな声が響いた。今日もアステリアの人達の代表として青年がイノシシと熊の素材を換金していた。


「またアステリアだぜ・・・」

「ああ、羽振りが良すぎだろ」

「俺達の仕事がなくなるぞ」

「リーダーどうにかしてくれよ」

「・・・」


 冒険者ギルドでは併設されている酒場で飲み食いすることが出来る。そこからアステリアの青年が素材を換金している所を見てガラの悪そうな冒険者グループが目を光らせている。最初の頃はからかう様にしていたのだが、最近では得物を取られているような被害妄想を抱き始めてしまったようだ。リーダーと思わしき男は部下達の言葉で動きだした。


「ちょっとアステリアの!」

「え?はい、何でしょうか」

「ちょっと冒険者を舐め過ぎなんじゃないか?」

「え?」


 リーダーはアステリアの青年に対して威圧的に話す。しかし青年はポカーンとしてリーダーを見つめる。


「え?じゃねえよ。ここはお前達が冒険者に助けを求める場所なんだよ。なんでお前達が素材を換金してんだ!それは俺達の仕事だろう。あまり場を荒らしてくれるなよ」

「は、はあ?」

「わかってねえな!」


 リーダーの言葉に青年が疑問を投げかけるとそのグループのチンピラが青年の襟首をつかむ。


「ちょ。ちょっとやめてくださいよ。この間新しくしたのに服がのびちゃう」

「服がのびるだ~!この状況で服なんか気にしてんじゃねえよ」

「ほんとに舐めてるみてえだな」


 グループの何人かが青年を囲う、襟首をつかんでいた人が青年を離すと一斉に蹴りや拳が青年へ放たれた。冒険者ギルドの受付嬢などの悲鳴が建物の中に響いた。


「も~、これは服代としてもらうからね」


 拳などの殴打音が鳴った後、本当にめんどくさそうな声が静かになった冒険者ギルドにこぼれた。青年は何事もなかったようにその殴りかかってきた一人の銭の入った革袋を持ち冒険者ギルドを後にしようとあるきだす。殴りかかってきた冒険者たちは全員仲良くおねんねしていた。青年はただ避けて少し顎を小突いただけなのだが。


「て、てめ~何しやがった。俺達のグループはここいらじゃ[邪犬]って名で結構知られてるんだぞ」

「え?ジャケン?、知らないよそれよりもすぐ戻らないと母ちゃんに怒られる」

「な、母ちゃん?お前幾つなんだ」

「何歳だっけ?確か12歳?」

「12歳!?」


 冒険者ギルドにいた面々は目を見開く。青年だと思われたこの子は何と少年だった。確かに身長は高くいい体付きはしていた為間違えるのも無理はないだろう。


「しかし、ここまで舐められちゃあ、こっちの立つ瀬がねえんだよ!」

「わあ、ちょっと受付の人助けて」


 流石に刃物を出してきたことで青年のような少年は焦り受付に叫ぶ。その時冒険者ギルドの入口の扉が開く。


「おっと、アステリアの人達は国に認められてんだよ。犬は引っ込んでなアブサン」

「[薔薇]のフッティアか、黙ってな。これは男同士の話だ!、女は黙ってな」


 フッティアと言われた巨躯の女は[邪犬]のアブサンの抜いた剣を手甲で握り振り下ろすのを止めた。そしてアブサンはフッティアに邪魔をするなと言い放つ。するとフッティアは苦笑いをしてアブサンを吹き飛ばした。


「ぐあ!」 


 冒険者ギルドの窓に突き飛ばされたアブサンはそのまま気絶して冒険者ギルドは静かになった。


「ありがとうございます。ここって怖い所だったんですね」

「いやいや、あんたもいい体さばきじゃないか。感心したよ。こりゃイノシシやら熊なんか倒せるだろうね」

「え?ははは・・・・じゃあ母ちゃんに怒られるから帰ります。本当にありがとうございます」

「ああ、困ったことがあったら[薔薇]にいつでもいいな」


 巨躯の女フッティアは青年風の少年を見送った。併設されている酒場のカウンターに腰かけてエールを頼み一口で飲み干しまたエールを頼む。彼女はただ立ち寄ったのではなかった、確かに彼女も冒険者なのでギルドに用がある事もあるがこの日は彼女達[薔薇]のリーダーローズの依頼でアステリアの換金を見ていたのだった。


「は~確かにあの少年があと5人いれば倒せない事もないか・・・でも明らかに命の取り合いの経験値がなさすぎるね~」


 フッティアはエールを更に飲む、まるでおちょこの酒を飲むようにジョッキのエールを飲むその姿はとてもワイルドだ。


「[薔薇]に欲しい人材ではあるけどローズが欲しがるほどかね~。まあ私は欲しいけどね、育てたらなつきそうだし」


 フッティアはエールを飲みそう呟く。


 アステリアの人達は強くなってしまった。それは何故か・・・ジーニのせいである。この世界では食べる事も経験値になるのだ、ほぼ毎日C~Bの魔物の肉を食べていたアステリアの人達は常人の2倍、いや3倍ほどの強さになってしまったのだ。だが戦闘による経験値ではないので達人には勝てないだろう、だが単純にステータスは3倍である。[邪犬]のリーダーのアブサンですら少年には勝てなかったであろう。


「ふ~でも公認とはいえちょっとやりすぎかもね」


 アステリアの人達はこれまで数多くの魔物を換金している。流石に冒険者達に目をつけられてもしょうがないという状況だった。それを抑えるのも大変な話だ。


「ローズの頼みじゃしょうがないが、私も暇じゃないんだぞ」


 冒険者ギルドにフッティアの呟きが響く。かくしてフッティアは安息を得られるのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る