第6話 魔王
「おや? あの双子は不在なのかしら?」
ここはアドスバーンの主都、バーン城。アドスバーンは魔族が主に住んでいる国アステリアや王都アルサレムのような中世ヨーロッパの建物がならんでいる。アドスバーン城の奥の部屋にて幹部たちが円卓に座るが三つの椅子は空席になっている。
「情報では手傷を負ったとか?」
「ほ~あいつらが手傷を...」
白い髭の男の情報に顔に傷のある巨躯の男が関心している。円卓に座るのは5人。その中には女も存在している。
「油断でもしていたのでしょう。でなければ人間なぞに後れを取るとは思えないですし」
「確かに我ら魔族に傷を負わせるなんて・・・・ローズ様かしら?」
ローズはここでも有名人なようだ。白い角を生やした女が目を輝かせて話す。ローズに恋心を抱いているらしいその女は会えるのではないかと期待しているようだ。
「確かツヴァイという英雄を捕まえたという情報を聞いたが」
「ほ~[天翔けるツヴァイ]か双子で勝てたのか?」
「ふんっ、ツヴァイとか言う者は情にあついと聞く。双子の罠にはまったのだろう」
顔に傷のある巨躯の男が鼻息荒く双子の戦略を話す。双子の戦い方は決して褒められた戦い方ではないと仲間うちでも語られているのだった。
「あの双子の話はもういいだろう」
円卓のある部屋の扉が開くと王冠を被った男が入ってきた。その男の名はアドスバーン、国名を背負った男は王の風格を纏っている。
「皆に集まってもらったのは他でもない。アステリアでの出来事の話だ」
円卓の開いていた椅子に座るとアドスバーンは話始める。
「今、話していた双子を倒した者がわかった・・・」
「ん?ツヴァイではないのか?」
「やはり!ローズ様?」
円卓に座っていたもの達はローズかツヴァイが関係しているものと思っていたがどちらの名前を出してもアドスバーンは頷かずに言葉を続ける。
「ツヴァイの息子だ。その者が圧倒的な力を見せつけ双子に傷を負わせそのまま逃げおおせたのだ」
「ほ~[天翔けるツヴァイ]の息子とは。双子を倒すのだからよほどの物なのだろう」
「なんだローズ様じゃないのね・・・」
息子と聞いて歓喜する者や無関心な者が入り交じる円卓の部屋。アドスバーンは衝撃の事実を告げる。
「ただの息子ならば皆を集めなかった・・・・その息子とは2歳にもならない赤子なのだ」
「「「「はい?」」」」
盛大に気の抜けた声をもらす円卓の者達。それもそうだろう自分達と並ぶであろう双子が一辺に手傷を負ったのだからそれ相応の相手だと思っていたのだ。
「その者は妖精か何かか?」
「いや、情報ではただの人間のようだ」
「双子の虚偽では?」
「その線も考えて兵士達やアルサレムでも情報をしいれさせたさ」
「それでも赤子という情報しか出ないという事か」
「ああ、それに凄い情報があるぞ。その赤子はアステリアの領主ツヴァイの息子なのは今言ったが、そのアステリアの難民が城外で暮らしているのだがその者達に魔物を狩って分け与えているんだぞ。凄いだろ?」
なぜかアドスバーンはテンションが上がり子供のようにはしゃいで調べた情報を話す。何が彼をここまで熱くさせたのかわからないその他大勢は頷くのみだった。
「魔物って事はFとかEのヤギやら羊やらの魔物だろう。それがどうしたと言うんだ」
「何を言っているんだ。双子を倒したのだぞ。そんな弱いわけないだろう。それに得物を下々に分け与えるんだぞ。それは王たる資質を持つものだぞ」
どうせ弱い魔物だろとツッコんだ巨躯の男はアドスバーンに怒られた。今のアドスバーンに反論やら公論をしても無駄なようだ。アドスバーンはただ言いたいことを言っているだけなのだから。
「彼は凄いぞ!私が聞いただけで100以上もの魔物をあのアステリアの難民の者達に分け与えているのだ。難民たちは食べられるものを食べ換金できるものは換金させてアステリアを奪い返した時の資金にその難民たちも蓄えているようだった。なんという一体感か!!私は!いやアドスバーンは彼に!いや彼らを迎え入れたい」
「「「「はい~?」」」」
まるで見てきたかのような感想を言うアドスバーンに二度目の気の抜けた声を上げる円卓の者達。それもそうだろう今戦争中で更には追い出した者達を受け入れると言っているのだ、それも王が。みんな目を見開いて唖然としていたが一人が口を開く。
「お待ちください、王様。それはいけません」
「何故だ。ジェイラ」
円卓に座っていたジェイラと言われた女はスリットの入った黒いドレスを揺らして王の元へ歩いて行く。
「私達はあなたの命で動いたのです。アステリアはあなたの命で奪いました」
「ん?ああ私が指示したな」
「でしたら。それをその者達にあげるという事でしょう?それは王が間違ったことをしたとアルサレムに謝るという事ですよ」
「ふむ・・・過ちだったという事になってしまうわけか・・・・ではその者達をアドスバーンが受け入れるという事は出来んかな?」
「その場合その赤子を引き入れなくてはいけません。アステリアの難民だけ引き込むとしたら王はそれ相応の対価を払わなくてはいけないでしょう・・・義というものを見せないといけません」
「ふむ・・・難しいだろうな」
「ですからどうでしょうか」
ジェイラは更に王に近づき耳打ちをする。すると王が目を輝かせて子供のようにはしゃぎ手紙をしたためる。その手紙はすぐに兵士に渡され兵士を走らせた。その手紙はどこへ行くのか円卓の者達はわからない。
「この後どうなるんだ?」
「仲良くなれたらいいな~~、だってローズ様に会えるかもしれないも~ん」
巨躯の男は不安そうな顔をして呟くが白い角の生えた研究者のような服を着ている女はローズの妄想をしながら喜んでいる。
「これは困りましたね~。私の計画がご破算です・・・どうにかしなくては」
王の様子を冷静に見ていた残りの男は親指を噛み何かを考えている。そして男は先に円卓の部屋を後にする。
結局王は終始テンションを上げて円卓で情報を話していた。それに付き合わされたのはジェイラと巨躯の男ガイアであった。王が退出するまでそれは続き解放された時には二人で大きなため息を吐いたのだった。
「バブ」
僕は一足先にアステリアの上空にいる。今アドスバーンに占領されているアステリアは平和なようで兵士がちらほら歩いているだけで騒動はおこっていない。
僕は鉱山も見ておこうと思い鉱山に向かう。やはり鉱山は稼働したままのようだ。アステリアでは鉄と銅がとれる、とても重要な拠点だったことが伺える。
「ブ~」
僕はちゃんとアステリアを眺めたことがなかったのでとても感慨深い。思わず声をもらして関心している。
「しっかりと働け。今日のノルマの半分もいっていないぞ!」
「「ひ~~」」
あれ?見た事あるような人が働かされてるな・・・。
お父様が留守の時に強盗に入ってきた二人組だ。髭が濃いのと薄いのが汗だくになりながら木でできた台車を引いていた。
生きていたとはびっくりだったが何だろうか何故かほおってはおけない気持ちになる。やっぱり初めての人達だからかな。ふふふ、待っておれよ!僕のプニプニをもう一度くらわせてやるぜ~。
助けるんじゃないのか~いとツッコみたくなってしまうが犯罪者を助けるほどジーニはお人よしではなかった。
そして、
「ギャ!もごもごもご.....グ・・・」
「え!お前はあの時の!、ギャ!!・・・・」
まるでエイリアンの幼体のように二人の顔に張り付きプニプニの腹をくらわせた。二人は疲れていたのもあって一瞬で意識をもっていかれた。
「何をさぼっている!」
倒れる音で兵士がやってきた。流石に犯罪奴隷の二人が可哀そうだなと思った僕はその兵士にもプニプニのお腹を食らわしてあげた。
ふはは、私のお腹は最強だな。量産のあかつきにはアドスバーンなぞ物の数ではないわ!。ってバカやってないで早く離れよ。
このあと別の兵士に見つかった3人は要らぬ噂をたてられた。ジーニが男達を重ねておいたのだがその置いた向きが悪かった。頭、股間、頭で更に仰向けうつ伏せ仰向けとまるで変態プレイである。
「あいつだぜ。鉱山奴隷とくんずほぐれつしてたって奴はそれも男同士で」
「え!まじかよ。きも~、男婦買った方がよくないか?」
「突っ込みどころはそこじゃねえよ!!」
大分アドスバーンの兵士達は腐っているようだ。そしてその兵士は要らぬ噂をたてられて涙を呑んでいたわけで。言い訳しようにも誰も奴隷の話もこの兵士の話も聞いてくれないのでどうしようもなかった。そりゃそうだよね、奴隷も赤ん坊にやられたって言っても誰も信じないさ、この兵士は僕の姿を見れてはいないだろうしね。まさにエイリアンにやられる序盤の人の様に。
「ブ~~」
は~暇を潰した潰した、お腹いっぱいでちゅよ。しかしお父様に言われてすぐ出てきちゃったけどここまで徒歩じゃ一週間くらいかかるんだよね~、失敗失敗。
いったん帰ろうかなと思ったその時アドスバーンの旗を立てた馬車がアステリアに入ってきた。
不審に思った僕はその馬車を観察すると元僕たちの屋敷の方に向かっていく。思った通り屋敷に着くと全身鎧に外套を被った人が馬車から出て屋敷にはいっていった。僕は・・・ふふふ[暗殺家業]の称号もあるし潜入しますか。さっきまでお腹いっぱいだったけど僕のお腹で眠らせちゃうぞ。
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