6 土瀝青に解ける

 日は天中にあった。それがわかるのは空を覆っている雲の流れが上空に荒ぶ風にうすく引き伸ばされて、和紙の裏でろうそくの火が燃えるように日が薄雲を白く光らせているからである。

 味のしなくなったガムを雪の上に吐き捨てた。濡れた雪である。その上に足を置いて、靴底が土瀝青まで達するのを感じる。土瀝青は温度もなくただそこにあり、雪を支えている。ガムはすでに凍りついたか、そんなわけもないが、土瀝青に同化したように思える。悠二にとってはあまりにも日常的に行われ過ぎて陳腐化したその一連の行為が、心の平穏を保つ上では重要であった。周囲の人間は、路上でこれと言ったわけもなく立ち止まり、溶け残った雪の中に憎しみとも見えそうな態度でもって足をうずめていく、それだけの彼の姿をはたから眺めている。あるいは一瞥も下さないかもしれない。見られていると悠二が思っているだけで。

 夜、雪に濡れた土瀝青の上で信号機が明滅をつづける。てらてらした光は雲の上を伝い車道をどこかへと進んでいく。日本海溝を渡るケーブルの中を行き交う光のように、あまりにも孤独に、しかし堅実に、その光は何かを指示しつづける。

 二日連続で気温が十℃を上回り、雪解けが静かに始まるころには、本当に、味のしなくなったガムは土瀝青と同化しているのである。雲が青空に解けていくのと同じように。

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