2 下り坂の先の踏切の先のさらにその先

 下り坂の先には踏切がある。三十分に一度通り過ぎていく電車が、悠二の前髪をはじいた。

 日は坂上の向こうに沈んでしまった。濃紺の空の天辺ちかくに、息を吹きかければ飛んでいってしまいそうな透かし月がぽつんとしてある。満月である。

 外灯がともりはじめ、悠二の影が二つ三つに分裂した。夏季のあたたかみが消え去ろうとしている時節の変わり目において、路端の草花は剣のような葉先を大気の流れの中にほうりだしている。道はひび割れたアスファルトに覆われていた。

 歩み続けられる道を悠二は求めている。踏切の先もやや下り坂になっており、さらにその先は国道に合流する。合流したとすれば、悠二は自然と左へ折れ二つ三つ、四つ、あるいはそれ以上の影を引っ下げながらでも、上京するのだろう。国道を三メートル十五センチの高さから照らす外灯は、五メートル五十センチ間隔で配置されており、そこにさらに月と車のライトが加わるのであれば、悠二の影は、四つに分かれたとしても不思議ではない。悠二はそう計算する。しかしまだその国道を歩いたことは悠二にはないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る