第1話 自堕落

『数司大隊』の隊舎、その地下に本部がある裏部隊、『殲滅班(せんめつはん)』。その本部の中で、一人の少年と、その上司の壮年の男性が話していた。

「やーだやーだやーだ! ふざけんじゃないよ! なんで僕が異動なのさ!」

「だから、貴様のその異動がのちの未来にプラスになるのがわからんのか?!」

「知るかー! というかそれだったら、ここにいたままのほうがいいじゃん!」

 …いや、口論していた。

「だ、い、た、い! おかしいだろ! 今の僕は育成中隊を卒業したんだぞ?! それなのになんでまた戻るのさ、前代未聞じゃないのか! しかも学生の身分で! 教職ならまだしも!」

「そう言ってもな! 大隊長の命令なんだよ! たかだかいち班長の命令をあのク…げほん、あの大隊長に言えるとでも?!」

「いやそこは素直にクズって言えよ腰抜けー」

「言いやがった?! 曇らせたいい方したのにこいつ言いやがったぞ!?」

「とにかく! 絶対ヤダだかんね!」

「何が嫌なのだーい?」

 ガタンと音が鳴り、変に耳につく声とともに、本部の中に入ってきた男を見て、言い争いをしていた二人は、げんなりとした。

「…おい誰だこんなとこにバカ呼び出したの」

「少なくとも貴様や俺ではないな」

「当たり前だ、私が勝手に来たのだからな!」

「「いらねえ世話焼くんじゃねえ!」」

 そのいらない世話をもたらした本人――アブナハム・ウィレル大隊長は、どこ吹く風というように文句を聞き流した。

「どうせ君のことだ、異動に関して駄々をこねていたのではないか?」

「あってるから反論できねえ!」

享也は頭を抱えうなだれた。

「で、なんでこんなことになってるんだい?」

「あんたが色々無茶言うからだろうが!」

亨也の上司がアブナハムに食ってかかるも、そんな言葉はどこ吹く風、と言わんばかりに聞き流している。

「ま、事情は聞いたのだろう! 亨也、君は来週から育成中隊の生徒だ!」

「お前いい加減にしろよお!?」

いい加減に亨也も切れた。

「あ、あのなぁ?! いくら筋書き高いだけっていう理由で、嫌味ったらしい話し方と、耳につく声と鼻につく態度しか取らねえくせに、最近あまり戦果らしい戦果すらあげれてねえおめえに言われたかねえよ!」

「HAHAHA! 言うようになったねえ! 少し前まではすーぐに手が出ていたと言うのに!」

――本音を言うと、亨也はすぐにでもこの大隊長を殺したかった。

しかし、それをすることのデメリットの方が大きすぎるので、我慢した。

 給料とか、給料とか、休暇とか。

「だが、意外だね? 君は少しは嫌がるだろうが、快く引き受けてくれると思ったのだが「ホーそんなこと思ってたのか? だったらいいぜ教えてやる。なんで俺がなんで、ここまで頑なにここから出るのを拒否るのかと言う理由をな・・・」

一呼吸おいて、亨也は大声で言い放った。


「ここはな――他の隊に比べて、圧倒的に給料と待遇がいいんだよーーっ!」


「「・・・は?」」

「いや、は? じゃねえよ! ただ近所の清掃すれば仕事は終わるし! しかも給料は中隊長並みにもらえるし! 自分の時間を思いっきり楽しめるんだよ!」

謎に威張っている亨也に、大隊長は尋ねる。

「・・・ちなみにきくけど、亨也君?」

「んだよ?」

「君、休日はどう過ごしてる?」

「寝てるなー基本、任務が終わった後も寝てるが?」

その言葉に、班長と大隊長の両名は、顔を見合わせ、頷き合う。

「・・・班長君、いいかな?」

「ああ、アブナハム。こいつには悪いが、左遷してやってくれ」

「なんでだよ!? 正当な理由だろ!?」

亨也が非難の声をあげるが、班長は冷め切った目で亨也に言いつけた。

「てめえはその堕落しきった私生活を改善してこい」



「・・・てな紆余曲折があって、帰ってきたってわけだ」

「いやどう言う理由よ(ですか)」

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