神官長がそう確認すると全員が頷いた


ふと遠い目になられたカシモフ・タタン様が『そうか』と呟かれた。


『息子の遺体が屋敷に帰った。今では寝返りすらできぬほど弱っている正妻が玄関まで出てきて息子の棺と対面した。棺に縋って泣いて、そのまま心臓が止まったよ』


カシモフ・タタン様の報告に、神官長は指を組み目を閉じた。

亡くなった二人のために祈りを捧げられているのだろう。

その様子に、それまで騒いでいた貴族たちも静まっていった。


「神官長、何があったのかね?」

「申し訳ございません。早く終わらせてしまいましょう。理由はそのあとでお話しいたします」


皇帝陛下の問いに神官長は謝罪をしてから姉に頷いた。

同じくカシモフ・タタン様の話を聞いていた姉が固い表情のまま頷き返したことで、神から何かよくないことを聞かされたというのに気付いた両陛下がお互いの顔を見合って頷き合った。




「近親相姦に関してですが、すでに二人は婚前交渉を済ませています。そんなマレンダを聖女に据えるという神への冒涜は、既に許される許容範囲を大きく外れています。さらに神具の破壊。それにより、神は聖女制度の廃止を決定致しました」


姉の言葉に貴族たちは騒めく。

静かなのは罪人たちだ。

彼らはよりも自分たちのの方が大事なのだ。

神の処刑は死より恐ろしいものだ、と聞かされている。

それなのにこんな愚かな行為をしたのには深い意味などない。


「ただ、友だちと楽しく遊んでいただけだ」

「好きな者同士が結ばれるためのパフォーマンス」

「「「こんなオオゴトになるとは思わなかった」」」

「聖女はお飾りじゃないのか?」

「神による指名?」

「「「そんなこと知らなかった」」」

「「「誰も教えてくれなかった」」」

「だから」

「「「僕たち私たちは悪くない」」」


事前に行った取り調べで彼らはそう主張した。


「そんなことが許されると思っているのか」


神官長がそう確認すると全員が頷いた。

貴族らしい、見事な責任転嫁だ。


「そうですか」


神官長がそう吐き出すように呆れた声で呟くと、刑が軽くなると思ってお互いの顔を見て笑いあった。

しかし、世の中そんなに甘くない。


「ではその罪は家族に負っていただきましょう。ご両親には教育に手を抜いた罪を。兄弟姉妹には、あなた方が知らなかったことを見逃した罪、その結果が神への冒涜に結びつきました。彼らの背負う罪は大変重いものです」


神官長の言葉で全員が口々に騒ぎ出す。

「自分が悪い」「自分が愚かだった」と。

しかし、それはすでに取り返しがつかなくなっていた。


そして今、この場所で更なる罪を重ねないように黙っているのだった。



「神は彼らに相応しい罰をすでに準備しております。24名には国の中心であるこの神殿より24ヶ所に分かれてその身を守護のために捧げていただきます」


24の罪人は処刑されないことを喜びあっているが、神が与える罰の意味がわかっているのだろうか。

死ぬこともできず、地面の奥深くに生きたまま封印されるということだ。

そして一時間ごとに順番に魔力を奪われて守護の力に変えられる。

封印、それは何もない空間でただひとり閉じ込められることになる。

その中では時間の感覚は薄れ、『自分の魔力が奪われ始めてから終わるまで』だけが唯一時間を知れるだろう。


ただ、ひとり足りない。

集められた魔力を国の隅々まで満遍なく送るための司令塔……殿を含めたら25人目が必要なのだ。

この25人目は封印の中で24時間ずっと魔力を奪われ続ける。

それも死なないギリギリまで。


『それはすでに相応しい者がおる。二人の罪なき者を殺したコシモドの愛妾だ。そして、コシモド自身にも罪を償わせる。まずは気の毒な二人の葬儀をさせる。そしてあの者に遺産を相続させたらこの下へと送る。もちろん愛妾とは別の封印だ。これで他の者をにえにせず一日交代で司令塔にできる』


神々は聖女という人身御供イケニエで国が成り立つ聖女制度を嫌っている。

だからこそ神具が与えられ、聖女が神殿に囚われずにいられるよう考えてくれている。

───────── そんな神具を壊してしまったのだ、彼らは。

神具なしで神に仕える道を自ら選んでしまった彼らに安寧はこない。

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