それは国の存亡にもかかわること
「それでは続けます。愚かにもコシモド公爵家嫡子マーソンによる神の領域を
そう言って姉は前列の端に腰掛けている女性の前まで進んで立ち上がらせて振り向かせた。
その姿にコシモド公爵は驚きの表情を見せる。
興奮したのか血色が良くなり、赤色をとおり越して赤黒くなった。
「わ、我が家の女性関係はこの場に関係はないはずだ!」
「いいえ、ございます。ソフィー、この方はどなた?」
「はい、私の乳母デイジー。そちらにいるマレンダの母でございます」
ここで大半の人たちは気がついたのだろう。
マーソンとマレンダをみやる者、コシモド公爵とデイジーを失礼にあたらないよう目を動かしてみる者。
そして私たちの言葉の続きを待ち望む者がほとんどのようだった。
「公爵様、お久しぶりにございます。長きにわたり前公爵様のご寵愛を受けておりましたデイジーにございます」
そういってデイジーは静かにカーテシーをする。
デイジーは没落したが貴族の出自。
コシモド前公爵の愛妾として10年間公爵家にいたが、前公爵亡き後現公爵に追い出された。
身重だったデイジーを乳母として招いたのが我が父だった。
「そちらにおりますマレンダ、そして此度の騒動で虚偽罪に問われてこの場に不在のリルンは共にコシモド前公爵様の遺児にございます。それは貴族院立ち会いのもと神の証明がなされております」
「公爵、この事実によりマレンダとマーソンは叔母と甥の関係。近親相姦による婚姻を神の前で宣誓してしまったのです」
デイジーの言葉に姉が補足する。
二人の立場を知っているからこそ、神官長は穢れた宣言を嘆いたのだ。
コシモド公爵家は皇族の血をひいている上、皇族の血を使った宣言で偽の聖女を擁立した罪も重なった。
それは国の存亡にもかかわることにもなる。
「貴族院に確認をしたところ、リルンとマレンダはコシモド公爵家に籍が残されています。それにより二人の立場は前公爵の遺児のままであり、遺産を受け取るべき権利を有する者と認められました」
「コシモド、そなたは異母とはいえ弟と臨月間近の妊婦、そして妹を家から追い出した。それも実家に手を回して保護すれば圧力をかけて潰すと脅したことも、すでに神の証言により判明しておる。そなたの父が亡くなったのは雪深い中、積雪もあったという。神の声を聞かれたジョゼフィン・クルーソ、当時はゾローネだったな。幼き彼女の言葉を真摯に聞き入れた父君が、雪の中を娘から聞いた場所へ馬車で向かい、雪に埋もれた二人を見つけて連れ帰った。そのことからジョゼフィン嬢は聖女と認められたのは貴族なら誰もが知っておろう」
皇帝陛下の言葉にほとんどの貴族が黙って首肯する。
首肯しなかったのは若い貴族たちだけだ。
家族全員が呼ばれたため、
彼らは生まれる前だから、知らなくても聞かされていなくてもおかしくはない。
問題は当事者が何も知らなかったことだ。
頷かないということは……デイジーたち
さらに人々の目はマーソンとマレンダの二人に向けられる。
叔母と甥の関係だといわれても彼らには理解できていないようで、不安げに寄り添っている。
マーソン自身は長子とはいえ公爵と愛妾の子だ。
そしてマーソンの弟ネイシクスは公爵と正妻の子。
次期当主に選ばれるのは
ここで貴族からも声があがった。
家族が呼ばれたにも関わらず、コシモド公爵は正妻も愛妾も連れてきていない。
そのことを不審に思ったようだ。
『愛妾はコシモド家の地下牢に入れられている。
(従者はなぜそのようなことを?)
『愛妾からの命令だ。さらにこう言われている『永久追放となった彼が生きている限り、従者に選ばれた5人は国に戻れない。家族に手紙を送ることも許されない』と』
(弟が隣国に渡ったのは10のときと聞いています。従者もそれくらいでしょう。その年で『家族と手紙すら送れない』と言われれば……)
『そう、彼らに罪はない。幼いが故の
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