第18話:戦利品
「とにかく、詳しい話は後でゆっくりしましょう。『例の光』のことも共有したいし。それより、何か食べる物ないかしら? 敬吾もお腹空いてるでしょう、私もペコペコなの」
「そういや、俺も腹が減ってんだ。さっき食べたのに腹のすきが異常っつーかさ」
「俺も同感だ。腹が減って死にそうだ」
3人の意見は一致した。そこへジュードがある情報を耳打ちする。
「もう少ししたらの、看守が夜食を売りにくるので、それを買えばいい」
「え? そんなもん売ってんのか? いい話きいちゃったぜい!」
「ただ……、こういう場所だからのぉ、少々高いのがたまに傷じゃが……。そのためには、早う集金しにいかんといかんぞい」
「集金というのは?」
不思議そうな顔をして、敬吾が尋ねた。
「ああ、ここのルールでの。試合に勝った者は、負けた相手の持ち物を奪ってよい決まりなのじゃよ。だから強い者は多く持ち、弱い者は奪われる……」
「そうと決まれば、ウェアなんとかとオーガんとこいこうぜ、おやっさん!」
「ウェアウルフじゃ、いいかげん覚えよ!」
「まあまあ、とにかく行こうぜ!」
2人は、さっそくウェアウルフの元へ向かった。
ウェアウルフはすっかり大人しくなり、正座して目の前に全財産や持ち物を並べた。
恋人と思しきメス狼の肖像画、何通かの手紙、噛み跡の残る大きな骨が数本、それに錆びて穴が開いた鉄なべなどが並んでいる。
銀貨も十枚ほどしかない。
2人はそれを見て、目の前の獣がすこし可哀そうになった。
「おやっさん、銀貨すこしだけもらったら、もう勘弁してやろうぜ。そのかわり俺がこれぐらいの銀貨は肩代わりすっからよ」
「お前さんもそう思っておったのか……。しょうがない、ウェアウルフよ、今日のところは何も持って帰らん。その代わり、少し稼いだら、銀貨5枚だけ、わしのところへ持ってこい。よいな?」
そうジュードが告げると、ウェアウルフは子犬のようにしょぼくれて、小さくうなずく。
そして、いそいそと荷物をしまうと、布切れを身体にかけたまま丸まって横になった。
次に徴収するのは、オーガの戦利品である。
オーガはすでに死亡しているが、貴重品は
帰る道中、看守がそう言ってカギをキラに手渡したのである。
部屋の奥には、たくさんの石棺が並んでいた。
この
カギに彫りこまれた番号を頼りに、オーガのそれを見つけ出した。
箱自体にはヒンジなどはなく、ただ重いふたが乗っている簡易なものである。
しかし、船のいかりに使うような、太い鎖を巻いて錠をかけるのだ。
オーガの棺にも、鎖に巻かれた古い南京錠が見える。
キラは、恐る恐るその錠を解き、石棺のふたを開けてみた。
そこには、先ほどみた狼男のものとは、比較にならない豪華な品々が並んでいる。
中にあったのは、彫刻をあしらった銀製の盃、女神をかたどった大理石像、木版に描かれた油絵、金細工が施されたタバコをふかす為の水パイプ、ワインを入れるガラス製カラフェ、シルクの織物、手紙類、それから袋に入った金の指輪など。
銀貨も100枚ほどはあるだろうか、中には金貨まで混ざっていた。
「おお、すげー! でも、死んだ奴の持ち物もらうって抵抗あるなぁ……」
困った表情でキラがそう言うと、ジュードが神妙な顔つきで彼を説きふせる。
「まあ、気持ちは分からんでもないが、わしらはここで生きていかねばならん。こういう物は、他の獣人たちに力を借りる際にも役に立つ。どうせ放っておいたら、看守が没収するか、そのうち誰かが盗むじゃろう。ありがたく使わせてもらったほうが有意義じゃとおもうぞ」
キラには、ジュードの言葉が、的を得ているように思えた。
――そうだな! 死んだやつのこと気にするより、今は俺たち自身のことを考えよう。
「わかったぜ、おやっさん。とりあえず今は、お金を半分と、盃4つ……、あと、この指輪だけ持っていくことにする。残りは、鍵閉めといてそのうち考えるわ」
そう言うと、中にあったシルク布を風呂敷がわりに物品を包む。そして、ふたたび箱を閉めて鎖錠をかけた。
◇
キラ達が麗奈の元に戻る。看守が物品を売りにきたのか、獣人達が群がっていた。
それを見て、自分たちもさっそく行ってみることにする。
道中、ジュードが、皆にこの国のお金について説明をはじめた。
「お主ら、ここでの物価がわからんようじゃから、すこし教えておきたいが、いいかな?」
「じゃあ、ちゃっちゃと教えてくれよ、おやっさん」
ジュードがレクチャーをはじめた。
「まず、今回収したお金じゃが、金貨、小金貨、銀貨、小銀貨、銅貨、小銅貨の6種類がある」
「金貨は小金貨2枚に換算でき、銀貨なら10枚、小銀貨20枚、銅貨100枚、小銅貨200枚に相当する」
「ここでは銅貨を使うことはないと思うが、外の世界なら銅貨2枚で大きなパンや小麦が1kgも買える」
「それと、あそこのワゴンにあるワインは銀貨50枚もするが、外にいけば銀貨10枚の品じゃろう。もっとも、庶民の飲む安ワインなら、銅貨で買えるのじゃがな……」
「ともかく、ここの物価は外にくらべて5倍も高いことを覚えとくとよい、以上じゃ」
5倍も物価が高いとは、看守たちも吹っかけたものである。例えるなら、200円で売っている商品を、1,000円で売りつけるようなものなのだ。
この200円は利益を乗せた『販売価格』であることに注意してほしい。
もし、仕入れ値が100円ならば、看守達はそれを10倍の値段で売っていることになるからである。
「麗奈、今の説明でわかったか? 俺、全然わかんねーんだけど。外の物価より5倍高いってとこしか分かんなかった」
「まあ、ちょっと乱暴だけど、金貨が1万円として考えたら、銀貨が1,000円、銅貨が100円ってことよ。」
「あと小さいのがその半分よ、小金貨なら5,000円、小銀貨500円、小銅貨50円ってとこかしらね」
「ああ! それ分かりやすい! じゃあ、俺たちは賄賂でいつも5,000円払うってことだな!」
「まあ、物価もはっきりしないけど……、今はそう考えていいんじゃないかしら」
説明が済んだところで、キラ達はワゴンへ向かった。
ワゴンの上に品書きと値段が、絵文字で記してある。
串焼き肉=銀貨3枚
パン=銀貨1枚
ワイン=銀貨50枚
ビール=銀貨30枚
たばこ=銀貨4枚
木画=銀貨20枚
「この木画ってーのは何だろ?」
「そこにある、獣の絵のことじゃないかしらね?」
「ほんとだ! つーか、こんな絵に、銀貨10枚払うやついるのかよー」
キラがそう言うと大声で笑った。
しかし隣では、先ほどのウェアウルフが、狼の後ろ姿と思われる木画をじっと見つめている。その呼吸は、異常なほどに荒い。
――ドワーフを倒して、今日こそ、この娘を買おうとおもってたのに、ちくしょー!
どうやらこれは、彼らにとって春画らしかった。
かくして、彼らは串焼き肉やパン、ワインなどを買い込み夜食を摂ることになった。
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死者の持ち物を受け継ぐのは、この世界の掟。
次号、光の謎について!?
お読み頂き、ありがとうございます。
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