第19話:愛しいしと
夜も更け、周りも寝静まったころ、宴はまだ続けられていた。
皆が楽しそうに語らい、笑いながら飲み食いする様子を、麗奈がひっそり眺めている。そしてぼんやり思うのだ。
こんなに楽しい気持ちになったのは、何年ぶりだろうか?
こちらの世界に来た瞬間は、絶望しかなかった。
あれからまだ数時間しか経っていないが、もう何週間もここにいるような錯覚にとらわれる。
「――それでさ、看守がそう言ったら、あの看守長がボッコボコに殴るんだぜ! まじもんのフルボッコ。こんなところに簿給で働かされたあげく、上司から壮絶なパワハラとか洒落んなんねーっての、はははははは」
キラが面白おかしく、これまでのいきさつを語っている。
「そうか、俺が死んでた間にそんなことがあったのか……。力になれずに申し訳なかったな」
生真面目な敬吾は、皆に頭を下げた。
「敬吾が謝ることないわ。敬吾が霊安室にいてくれたおかげで、私が助かったんですもの。ね、ジュードさん?」
部屋に戻らず、キラの応援に没頭していたジュードを、麗奈がそれとなくなじる。
「いやぁ、そんなことが起こると知っておったら、真っ先に帰っておったのに、面目ないわい……」
「まあ、とにかく全部上手く行ったんだし、いいんじゃねーの? 結果オーライで」
と、キラがうまくまとめた。
「ところで、俺たちの今の力、やっぱりこの入れ墨や傷が原因と思ってよさそうだな」
敬吾が本質的な部分へと話をかえる。
「多分そうだと思うわ。仮説だけれど、光が消えた瞬間に能力が高まったんだとおもうの。私も力が強くなったのは、光が消えた後だし、敬吾が生き返ったのもそのタイミングだと思うの」
「俺もそのタイミングでオーガより強くなっちまったからな。多分間違いないよ。」
「じゃあ、光ってる間の数時間というのは、どのような意味があるんだろうか?」
「これも、仮説でしかないけれど……、その間にこのマークが経験を学習してるんじゃないかしら。キラも敬吾も、傷の治りが早いでしょ? でも、敬吾の回復は、出来たそばからすぐ回復するじゃない。燃やされてる時も、燃やされる同じスピードで回復しちゃう。キラの回復はもっとゆっくりなものよね? これはきっと、敬吾が『死ぬ』ってことを学習した結果じゃないかと思うの」
「じゃあ、俺もオーガに殺されてたら、不死身になれたってことかよ?」
「はっきりは言えないけど、その可能性はあったんじゃないかしらね」
「まあ何にしても、俺たちにこれだけの力があるってことは、ここからだって抜け出すことができるんじゃないかな? 今の俺たちなら、看守が武器を持っていても問題ないはずだ」
敬吾は神妙な顔つきで、皆にそう問いかけた。
「たしかにそーなんだけど、行く当てもねーし、とりあえずはここで様子見てみるのはどうだろ? せっかくおやっさんとも知り合えたしよ」
「それは言えてるわね。食事はちょっと酷いけど、ここに居れば衣食住の食と住はあるわけだし……」
「それもそうだな、キラや麗奈さんの言ってることには一理ある。それじゃあ、この先どうするか決めるまでの仮住まいとして、ここに残ることにしようか? 俺はここの生活を少し改善するよう、明日看守長に直談判しにいってくる。聞き入れないようなら、その場で暴れてやろうと思うんだ」
「あ、それ賛成ー!! じゃあ、俺もついてくぜ。ふざけたことぬかしやがったら、ギッタンギッタンにしてやろうぜ。」
「2人とも、あまり無理はしないでね。強いのはわかってるけど、平和に解決できるならそれに越したことがないわ」
「麗奈さん、わかってるよ。ここの不衛生な環境を、何とかしてもらいたいだけなんだ。俺たちも協力することを前提にすれば、聞き入れてもらえるとおもうんだ」
「そう、それなら大丈夫そうね。不衛生で選手が病気をしたら、看守達だって困るだろうし」
「わしから一つアドバイスなんじゃが、看守が腰にぶら下げとるダガー(短剣)には気を付けておけ。あれを抜かれると、少々厄介じゃ。まあ、キラのスピードなら、抜く前にかたをつけるじゃろうがな、はっはっはっは」
「ジュードさん、アドバイス感謝します。ダガーには気を付けるようにしておきます」
敬吾はそういうと、ジュードに頭を下げる。
「あ、そうそう、忘れてた! 麗奈、これおみやげ」
キラが空気を変えるように、オーガから手に入れた指輪を麗奈に手渡した。
指輪はずっしりと重く、純金製のようである。
宝石などは埋め込まれず、文字に似た模様が浮き上がっていた。
そしてそれは、見る者を吸い込むような、神秘に満ちた輝きを放っている。
「まあ、シンプルだけど素敵ね! ありがとうキラ!」
麗奈は大喜びし、さっそく指に指輪をはめてみた。
その瞬間、麗奈が目つきを変えて、こうつぶやいた。
「Oh, my precious! (いとしいしと)」
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麗奈に何が起こったのか?
そして、看守のダガーの正体とは!?
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