第16話:起死回生(4)
◇
「キラ~~! 避けろ~~~!」
大声でジュードが叫ぶ。
その声も虚しく、オーガのかぎ爪はキラの腹にめり込む。
しかし、めり込んだはずの爪を、キラが両手で押し返している。
「信じられん! 俺の一撃を人間のお前が止めただと!?」
オーガは驚き、キラを見つめる。
「いや~、何が何だか分かんないんだけどよ~。とにかく最高の気分ってやつだよ」
キラがそうつぶやくと、首を背後の地面へ叩きつけ、反動だけで立ち上がった。
その肩に、以前あった光は消えている。
「なんて身のこなしじゃ、あんなの見たこともないぞい。どんな首をしておるんじゃ?」
ジュードは思わず驚愕し、見間違いではないかと目をこする。
立ち上がったキラは、首を鳴らしてこう続けた。
「もうさー、あんたじゃ俺に勝てねーと思うんだ、オーガさんよぉ」
「何だと、俺の攻撃を一度止めたぐらいで図に乗るんじゃない!」
オーガはそう言うと、斜め上から右手のかぎ爪をキラめがけて振り下ろした。
その瞬間、キラの姿は消え、いつのまにか自分の背後に立っている。
「な?」
涼しい顔をしてキラが笑った。
「どういうことだ? いつの間にそこへ来たんだ?」
「それより、爪を見てみな」
キラに言われ、自分のかぎ爪を確かめた。
なんと、ナイフのようなかぎ爪が、途中で全てへし折られているではないか。
「お前がやったのか? 一体何をした?」
「何をしたって、見りゃあわかるだろ? 爪を折ったんだよ。避けるだけじゃなく、折る余裕まであるってことだよ。お前の攻撃がスローモーションにみえて退屈なんだわ。もう止めにしねー?」
「ふざけたことを! どうせ何か小細工をしてるんだろう!」
そう言うと、今度は左の爪を叩きこむ。
しかし次の瞬間、キラは5mほど先まで移動していた。
「すまねー、そっちも丸めちゃったけど、俺も足痛かったからおあいこな!」
――いつの間にあんな距離まで……!
そういえば、傷つけたはずの足も使えているようだ。
出血はあるものの、移動には支障なさそうである。
オーガは自分の両爪を見つめ、悔しさに震えた。
「俺をこけにしやがって、もう許さん!」
そう言うと、猛烈なスピードでキラ目がけて突進してきた。
「しゃーねーな、白黒つけっか!」
またしてもキラが視界から消る。オーガは走りながらその姿を探した。
探している横を、キラが同じスピードで疾走し姿を見せる。
そして、走る足めがけてジャブを放つ。
つんざくような轟音とともに、足に激痛が走った。
「うぉぉぉぉぉお」
痛みで麻痺した片足が絡まり、勢いのついた身体が地面を転がる。
「おら、立てよ。もうちょっと遊んでやっから」
キラはそう言いながら、ファイティングポーズをとり、眼前に立ちふさがった。
オーガは足を引きずりながら、立ち上がる。
今度はリーチを生かしたストレートパンチを浴びせてみた。
キラはその間に、腕にジャブを数発叩き込み、相手の周りを軽やかにサークリングする。
「ぎゃあああ」
オーガの腕に激痛が走った。痛みと恐怖から、足も全く動かない。
「身がすくむ」という言葉どおり、目の前の敵に勝てないことを、本能が理解したのだ。
「よし、いいだろう。お前の勝ちにしといてやる……」
「何? 聞こえない。やっと身体が温まってきたんだ。早く立て。ほら、ビシッ! ほら、ビシッ!」
そういうとキラは、かがみこんでいるオーガの肩に音速ジャブを放った。
「うぎゃ~~! 俺が悪かった。 だからもう止めにしてくれ、頼む!」
キラにとっては軽めのジャブだが、オーガにとっては耐えがたい痛みのようだ。
まるでムチに打たれた、サーカスの猛獣である。
この姿に、会場は爆笑の渦に包まれた。
笑い物にされようと、命あってのものだねであろう。
オーガは恥を忍び、うつむきながら人差し指をキラの前に突き立てる。
「おめー何やってんの?」
不思議そうにキラが尋ねた。
「闘技場での降参の合図だ」
悔しそうな表情でオーガが答える。
その瞬間、試合終了のホーンが鳴りひびく。
キラは片手を高らかに上げ、自らの勝利を示した。
「あいつ、やりおったわ! 信じられん! どこにあんな力を隠しておったんじゃ!?」
ジュードはそう言うと、看守のほうを向き、勝ち誇った顔をしてニヤリと笑う。
負けを認めたオーガは、ショックからその場を立ち去れずにいた。
ただじっと、看守から渡された短剣を見つめている。
そこに突然、入場ゲート横から一本の矢が放たれた。
矢はオーガの
それに気づいたキラが、そばまで駆けつけた。
「おい、大丈夫か、おめー! しっかりしろ!」
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矢は誰が放ったのか?
そして、オーガは……
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