第15話:起死回生(3)



 その頃、麗奈は指のタトゥーが点滅する感覚で目が覚めた。

 体を霊安室れいあんしつの死体を乗せる石板に縛られ、足は太ももとを閉じた状態でぐるぐる巻きに縛られている。

 そればかりか、着ていたズボンはおろか、下着さえ脱がされているではないか。


「やっと起きたか。これから楽しくなるぞ」


 ホブはそういうと、ヨダレを垂らし卑猥な笑みを浮かべた。


「ちょっとほどきなさい! 医者にこんなことして、ただで済むと思ってるの?」


 身動きの取れない麗奈が、精一杯の抵抗をする。


「俺は知ってるんだ、人間の女はこういう無理やりが好きなんだろ? みんな気が狂って逝きまくってたんだ。お前みたいな変わった女は、もう股濡らしてるんじゃないか?」

「何いってるの! こんなムードがないのは大っきらいよ。大体、あんた鏡見たことあるの? あんたみたいな清潔感ない男、全くタイプじゃないわ」


「ほう、そうなのか。でも最後には、お前も気がふれて、よがるんだろうな。ひっひっひ」

「馬鹿じゃないの? 人間は耐えられない苦痛から身を守るために気が狂うだけよ。ほんとは痛いだけだから、勘違いもほどほどにしなさい!」

「まあ、何とでも言え。それじゃあ、始めるぞ。俺のガキをいっぱい産ませてやる!」


 辺りは死体しかなく、広い室内は静まり返っていた。

 ホブがゆっくりと、腰布をほどく音がする。

 なす術もなく、その瞬間を待つ残酷な時間であった。


 真っ裸になったホブが、麗奈の足に触れ、覆いかぶさってくる。

 ホブの口からは、腐った肉のような匂いと、強烈な体臭がした。

 その瞬間、麗奈の全身に鳥肌がたち、嫌悪感から吐き気をもよおす。


「嫌ぁぁぁ、誰か助けてー!」


 この部屋は重い扉で閉じられ、闘技場を見渡せる小窓すらもない。

 10m近くの分厚い壁が、外に音を漏らすことはないだろう。

 助けが来ないことは知りつつも、麗奈は必死に助けを呼ぶ。


 その時、指の点滅が止ったような感覚があった。

 もう光は消えてしまったのだろうか。

 何故だか麗奈には、それが人生の終わりのように感じられた。


「じゃあ、一気に挿入するか。ぎゃはははは」


 下卑た笑いを浮かべながら、ついにホブのモノが麗奈の中に入ってくる。

 と、その時であった!


「俺は、無理やり女を手籠めにする輩が、一番嫌いなんだ!」


 突然、どこかで聞いたことのある声がした。

 ホブの後ろにはかすかな人影が見える。

 その人影が近づくと、そこには全身血で染まった敬吾の姿があった。


「敬吾!!」


 麗奈は、嬉しさと驚きで涙ぐみながら、大声でそう叫ぶ。

 ホブは驚き、とっさに後ろを振り返った。


「お前は俺が殺したはず!? 心臓も止まったし、内蔵だって引きずり出したのに、なぜ……」


 ホブは、亡霊でも見るように敬吾をながめ、固まっている。

 麗奈は職業がら、即座に敬吾の全身をチェックした。

 なんと、敬吾は全身血だらけにも係らず、体中どこにも傷がないのである。

 さらに、潰されたはずの片目は麗奈同様、サファイアのように青く輝いていた。


「そういやお前には、やられた礼をしないといけなかったな」

 おだやかに話す敬吾の言葉に、底知れぬ恐ろしさを感じる。


「だまれ! 俺がもう一度殺してやるまでよ!」

 ホブはそう言うと、地面に転がる匕首あいくちを拾い、敬吾の喉元を数回切りつけた。


 一瞬、敬吾の姿が視界から消える。

 次の瞬間、敬吾はホブの横に立ち、匕首を取り上げていた。

 そして、その刀身を指でぐにゃぐにゃに曲げると、にぎり飯をこねるかのように、鉄をボール状に丸めてしまったのである。


「俺は、もうひとつ嫌いなものがあるんだ。それは、丸腰の人間に武器をかざして優位に立とうとする奴だ」


 敬吾はそう言うと、丸めた鉄塊をおもむろに床へ落とした。


「だがまあ……、生き返ったばかりで機嫌がいいんだ。見逃してやるから、パンツを穿いてとっとと失せろ」


「しゃらくせー! お前は地獄へ戻りやがれ!」

 そう言うや否や、ホブは皮水筒から何かの液体を口に含み、敬吾の顔目がけて毒切りを吐いた。


 同時に火切り石で火を放つと、以前のように敬吾の上半身を燃え上がらせる。


「勝った! これで最後だ!」

 ホブは手元にあった石製のメスで、敬吾の腹を切り裂いた。


 しかし驚くことに、切りつけた腹部がファスナーを閉めるように、切った先から閉じていく。

 よく見ると、上半身も焼けた皮膚が回復しながら燃えていた。

 炎が鎮まると、やけど一つない綺麗な顔をした敬吾が言う。


「お前は、この先もずっと害を与える存在だろう。やはり、ここで死ぬべきだな」


 そう言った途端、鼓膜を突き抜けるほどの轟音ごうおんが鳴り、ホブの頭が胴を離れていった。

 飛ばされた頭部は、絵の具の中身を叩きつけたように壁で潰れ、断片すらものこらない。

 殴られた本人ですら見えなかっただろうが、敬吾のジャブが音速を超え、小鬼の顔に直撃したのである。


「敬吾~~~~~!!」


 下半身裸の麗奈が敬吾に抱き着き、熱いキスをした。

 敬吾は赤面し、くるりと背を向けこう呟く。


「こ、こっち向いてるから、その……下着とか履いたほうがいいと……思うぞ……」


「あら、ごめんなさい、そうだったわ」

 そう言うと、麗奈が服を着はじめた。


「ところで、縛られてたと思ったんだが、どうやって縄を解いたんだ?」

 壁を向いたままの敬吾が質問する。


「それが、分からないんだけど、起き上がろうとしたら、勝手にブチブチ切れたのよ」



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敬吾復活! 麗奈も能力に目覚めた。

そして、キラの死闘の行方は!?


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