第12話 巨大亀と『シェルウォーク』キルドマスター
「うわわっっやばいよエイリット~! 逃げなきゃ……あれ、あれ……足が……」
超高級羽毛を求め王都を離れ、シルビドの街近くの岩山に来た俺たち。
岩の隙間に数枚挟まっている羽毛を見つけ集めるという、たとえどんな人気動画配信者がやろうとも閲覧数が急降下しそうな作業をしていたら、突如爆発音が響き、上から巨大な岩が落下してきた。
「兄さん! い、いける……かな?」
「迷うな、俺たちは『炎狼の二枚盾』。俺とお前で防げないものはない!」
真上から振ってくる巨大な岩に驚き、リカルテが腰を抜かし座り込んでしまう。
それを見た盾兄妹ホスロウとディアージュが大盾を構えリカルテの元へ走る。
「……大丈夫ですよ。こんなの以前は日常茶飯事でしたし」
大きなキャスケット帽をかぶったユーベルが、爆発音が鳴ったあたりから目を離さずに無表情で言う。さすが俺の相棒、よく分かってんじゃねぇか。
「行くぜ……唸れ黒炎、暗黒の力を纏いしシュヴァルツイグニスの力を今ここに……! ……おおお……! 俺の左目が光って唸る、あいつを倒せと轟きさ……!」
「……うっざ……なっが……いいからさっさとやりなさい。あいつら、逃げてしまいますよ」
俺が内なる黒炎の力を開放し、左目の魔眼を開眼。全ての暗黒パワーが自慢の大剣に収束、あとは尋常じゃないエネルギーを放ち震える我が左目を抑えつつ右手で重そうに大剣を構える暗黒ポーズを取れば5つある暗黒門の1つが完成というところでユーベルに小突かれる。
あ、くそ、もうちょっと言わせて……ってそれどころじゃないか。どうやらこの崩落には仕掛け人がいるみたいだし、待たせちゃ悪いよな。
「いいぞ、動きの遅いC級モンスター相手なら通る攻撃だ。だが……俺には効かねぇな!」
暗黒に染まった大剣を構え上空に向かって一閃。
俺の暗黒斬撃三式を受けた巨大な岩が豆腐のように真っ二つに裂かれ、轟音をたて崖下へ転がっていく。
「すっご……やっっぱりエイリットは頼りになる!」
「うぅーん、素敵エイリットくん! お姉さん体が熱くなってきたの」
「さすがっすエイリットさん! ピロロ……でもなんかもう1回なんかありそうっす」
脆いぜ……リカルテに盾妹ディアージュは無事、盾兄ホスロウも大丈夫と……もう1回?
って岩に付いていたらしい羽毛が辺りに舞ってる……!
ちっ、上の方にも結構あったのか。
「……4人、北側に逃走」
おっとユーベルが仕掛け人を視界に捕らえたようだ。いつもながら索敵能力の高さが半端ないな。
「俺からも見えたぜ……ってあの服装……」
急斜面の岩山を駆け上り逃走していく仕掛け人を確認。……が、どうにも見覚えのある服装。
振り返り俺を確認した一人の視線、これにも覚えがある。えーとあれだ、シルビドの街の宿屋の食堂で睨んできた奴らだ。
「おかしいな、俺の記憶では5人なんだが。ユーベル、もう1人いるはずだ、探せるか?」
「……分かりました。とりあえず4人を追ってください」
食堂にいたのは確か5人。
この場には来ていないのか? いや、なんか気配がある……必ずいるはずだ。
「ば、化け物か……こいつ!」
「くそ! 俺たちレベル25剣士だぞ……4人がかりで勝てないとか……」
「ほ、本物……やっぱこの人すげぇよ」
「負けだ、剣には自信があったんだが、ここまで違うとはな……」
あっさり4人に追いついたが、全員問答無用で襲いかかってきた。
軽く自慢の大剣を振るい、彼らの剣を綺麗に4等分にしてやったら大人しくなったがね。アイテムボックスから適当な登山用ロープを取り出し手足を縛る。
「ん? 全員剣士? じゃあさっきの魔法は……」
おかしいな、てっきり1人ぐらいさっきの岩山の一部を破壊できるほどの魔法使いがいると思ったんだが。
「……あ、あああ! ちょ、フォルマさん話が違……おい、ロープ解いてくれ! このままじゃ全員死んじまうぞ!」
捕らえた男の1人が俺の後方を見て顔を青ざめさせる。
フォルマ? なんか聞き覚えがあるな……ああ、食堂開店させたときにリカルテが来て、ギルマスのフォルマさんが魔法使いで肌が合わない……とか言っていたか。
魔法使い……?
──コーン
俺の足元に何か光る物が転がってきた。これは……魔晶石か。こんな高価なもの、どこから……ってなんだこの振動、地震か?
「お前さえ……お前さえいなければ、こんなことにはならなかったんだ……! 報いを受けろ!」
背後から聞き覚えのない声が聞こえ、巨大な物体がこちらめがけて転がってくる。
「うわあああああ!」
「俺たちごと消す気かよ……!」
「くそ、フォルマの野郎……おいロープを解いてくれ!」
「た、助けてくれぇぇ!」
俺たちのほうに転がってきた巨大な物体は、全長25メートルを超える亀、ベルヒタートル。
普段の動きはノロノロと遅いのだが、甲羅に引っ込み転がりだすと魔晶列車を超える速度を出すC級モンスター。
国内トップレベルを誇っていた『炎狼の二枚盾』のホスロウとディアージュですら防戦一方の戦いとなり、逃げるのがやっとらしい相手。
平地によくいるモンスターだが、なんでこんな山にいるんだ。
「消え去れエイリット……!」
ザ・魔法使いという格好をしている男、『シェルウォーク』のギルドマスターのフォルマが巨大な炎の塊を作り出し巨大亀の後ろから魔法を放ってくる。
ほう、いいぞ、攻撃は単発より連続攻撃のほうが効果的だ。
亀を先に放ち、さらに魔法で追撃。さすがギルドマスターをやるほどの男、戦い慣れている。
「……モンスターを先に放って……か」
偶然か知らないが、まるで操っているかのようにベルヒタートルを仕掛けてきたな。
人間がモンスターを操る、そんなことが可能なのか?
俺のことを知っているようだが、こっちはフォルマとやらを全く知らない。知らんやつにこんな恨みを買うようなことしたっけ?
「まぁいい。俺は頭が悪いんでね、詳しいことはユーベルと話し合ってもらおうか!」
久しぶりの大物相手……おおおお! ……詠唱なし邪眼解放!
「きたきたきたー! 体に猛烈な負担が掛かる緊急暗黒解放、燃えるぜこの状況! 後ろには善良なる一般市民、ここから一歩も動かず巨大なモンスターを迎撃する不利な戦い、これぞ暗黒騎士の本領が発揮出来る最高の瞬間で……」
「……善良ではなく、私たちを消そうとした犯罪人。妙な暗黒ポーズはいいから早くしなさい、後ろの4人が恐怖で気絶してしまいましたよ」
おっとこの強烈なツッコミ、ユーベルが追いついたか。
巨大亀が目の前まで来ているし、さっさと倒しますか。
ああ、悪いがこのベルヒタートルってC級モンスター、過去に200匹近く倒しているんだよね。
一撃で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます